10人が本棚に入れています
本棚に追加
あと1分でも、長話をしていたら。逆に、1分でも早く、話を切り上げていたら。
そんなことを、思わない日はなかった。
あの日、亜星は死んだ。
飲酒運転の車に撥ねられ、空に舞った。
俺の頼んだ、チーズコロッケを抱えて。
希望と夢を、たくさん詰め込んだまま。
おまえを亡くしてすぐは、もう音楽はできないと思った。
辞めたいとも思った。
毎日自分を責めたが、その怒りが亜星に向くこともあった。
俺を放置して逝きやがってって。
まだおまえに訊きたいこと、言いたいこと、山ほどあったのに。
俺じゃあ、おまえみたいな音、作れないのに。
でも俺がクヨクヨしているたびに、昔のおまえと俺が溌剌と笑うんだ。
おまえと俺と、歌いながら。
俺は、ずっと、すごく、すごく……楽しかった。
俺はおまえみたいに歌えないけど、おまえみたいに人を救いたいとか、そんなすごいことも考えられないけど、なんとか、おまえにもなってみせるよ。
おまえが残していったコーヒーのシミが付いた、手直しだらけの譜面を、この体に焼き付けてみせる。
おまえを支える音を作るのが俺の役目だと思っていた。だけどこれからは、俺とおまえの演奏。両方やるから。
心配するな。昔から、根性だけは人よりある。
だから。今日から俺は、雪亜だ。
そして、そんな頑張る俺を、支えられるようなすごいやつらを探すから。
心配するな。おまえの思いは、絶対に消えない。
バンド名は引き続き、クレオでいいよな?
ギリシャ語で、〝栄誉〟
ふふ、笑える。おまえにふさわしいバンド名だ。
いつか俺も死んで、あの世で待ち合わせした時、おまえが作りたかった音はこれだろ?ってドヤ顔で言ってやるんだ。
だから、ちゃんと背中押してくれよな。
最初のコメントを投稿しよう!