妖蛇旧鼠を討つ

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妖蛇旧鼠を討つ

――――宮中は蛇たちの反撃を察知したのだろうか。最初に見かけた鼠よりもさらに巨大な……犬猫ほどの大きさのある鼠が飛び交っており、宮中の官吏や武官たちに襲いかかっていた。 うわ……何このリアル妖怪絵図は……! しかし宮中の人間たちは鼠に加えて蛇まで来たことに顔面蒼白だ。 「よっしゃぁお前らぁっ!かかれぇ――――っ!」 白蛇さまの掛け声に、アオダイショウたちが飛びかかって巨大な鼠を仕留めていく。 その姿に、宮人たちは何が起こっているのか分からないと言った様子。しかし救世主と言うものはいつでもいるものだ。 「恐れることはありません!彼らは巫子が招きし宮中に巣くう悪しき妖魔を祓うものたち!」 「中宮さま!」 しかも今は十二単を脱いで武道装である。 「……琵琶(びわ)」 その時、白蛇さまが中宮さまを見て呟く。 「お久しぶりね。鴇白(トキシロ)さま。異界の巫子ならばもしくはと思って正解だったわ」 「ふん」 中宮さまの言葉に、白蛇さまはふいと顔を背けて次の鼠退治に向かってしまったが……。 「え、2人って知り合い?」 「答えは後……!受け男子は度胸!蛇たちの足手まといにはなれない」 中宮さまが短刀はどう?と差し出してくる。 「あー、できれば弓で」 「でしたらこれを」 同行してくれた武官が弓矢をくれる。うん、これはいいかも。 しかし俺に同行してくれた武官たちはともかく……宮中に控えていた武官たちは何がなんだか分からず、脅えているようである。 「おい、コラ!そこの役立たずども!そこで尻餅ついてその()っこが飾りもんになってんなら根こそぎ刈ってやろうか!?あぁん!?」 中宮さま、攻めよりも漢だったぁーっ!そして中宮さまの言葉に股間をすかさず抑えた武官たちが、鼠退治に向かっていく。 そしてその時、頭上に影かかかる。 「危ない!」 中宮さまの叫びが聞こえるも、これは間に合わない!? 「我が嫁に触れるな!」 ひゅんと素早く大鼠に噛み付いたのは……黒い蛇。 そして仕留めた鼠を口から払い落とすと、真っ先に俺のところへ飛んでくる。 「大丈夫か」 「うん……頭黒!ごめん……!」 「よい。気を抜くなよ」 「うん!」 頭黒の蛇体を引っ張らないように、頭黒と中宮さまの繰り出す攻撃を支援するように弓矢を放つ。 「巫子の弓矢には神力が宿ると言う」 え……?そうなのか……?頭黒。 「おめぇら!あっちからすげぇでかい気配がするぞ!」 この場の巨大鼠たちをアオダイショウや武官たちに任せ、俺たちは白蛇さまに続く。 その……先には。 「ぎゃあぁぁぁっ!!」 震えながら絶叫する春宮と……その目の前には2メートルもありそうな巨大な白い鼠! その傍らにはもうひとり青年がいる。 「あのこ……確か女御の皇子ね」 と、中宮さま。女御と言うのは帝の側室のことだろう。そしてあそこにいるのは春宮の異母兄弟ってことか。 そして中宮さまの姿に気が付いた春宮は中宮さまの元に飛んできた。 「母上助けてえええぇっ!」 いや、おい。何でこんな図太い中宮さまになよなよ春宮なんだ。しかし中宮さまに飛び付こうとする春宮を突き飛ばし、中宮さまの周りに蛇体を絡めたのは白蛇さま!? 「琵琶に触れるな、クソが」 「な……ば、化け物おおぉっ!」 白蛇さまの姿に春宮が絶叫する。 「あ゛?」 白蛇さまが春宮を睨むと、春宮は震えて何も言えなくなる。 「鴇白さまは、私の一族の祖先が交わったお方。うちの守り神だと言うのに」 そう言えば……白蛇さまには人間の伴侶がいたんだもんね。 その子孫が中宮さまなんだ。そう言えば……元々蛇に寛容だったかも。 しかし春宮はその子孫にも関わらず白蛇さまを恐れる……か。何だか複雑だな。さらには仇敵の鼠に襲われている。そして目の前の旧鼠の隣に立つ皇子。 「あなたが旧鼠を招き入れた犯人ね」 中宮さまは春宮から視線を外し、皇子を見る。中宮さまはもうすっかり春宮を見限ったようである。 「くそ……っ、全て上手くいっていたのに……!旧鼠さまの力で、ぼくは帝になるはずだったんだ!いけ!旧鼠さま!また懲りもせず潜り込んだ蛇どもをたい……っ」 皇子の言葉の途中で旧鼠はにいっと嗤うと、皇子の肩に噛み付いたのだ。 「ぎゃあぁぁぁっ!!」 ひ……っ 「はん……っ、妖怪をナメるからだ。お前は上手く利用されたんだよ」 白蛇さまが冷たく言い放つ。 「た……だずげ……っ」 苦しみながら皇子がこちらに手を伸ばす。 「助けたところで極刑は免れないのでしょうけど……皇族の血を旧鼠にやるわけにはいかないわ」 「その通りだ……!」 中宮さまの言葉に白蛇さまが頷き、合図すると同時に素早く弓を弾き、鋭い矢を放つと、まだ食事中だった旧鼠を襲い慌てて皇子から口を放す。そして怒りに満ちたように肥大化して襲いかかろうとするのだが、黒と白、2匹の双蛇が素早く噛み付く……! ――――そして、旧鼠の断末魔の悲鳴が響き渡った。
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