冬ごもり

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冬ごもり

――――和風異世界宮中生活が始まって半年。 「ちょっと冷えるな……」 回廊を歩けば、もうすぐ初雪の予感を覚える今日この頃。 「伊月の女房!」 「はい?」 何だろう……?顔見知りの武官ではなさそうだが。 「以前からあなたさまを見てお声をかけたいと思っておりました」 「……」 はぁ……?最近こう言うのが増えたのは、頭黒が共にいないからだろうか……? 「どうか私と……」 「夫がいる身ですので」 「それがなんだというのです?」 はい?うぅ……こう言う積極的なやつは少なくない。しかも不倫と言うよりも積極的に側室に迎えようとしてくるからたちが悪い。そもそもの夫の身分が低いと、身分の高い攻めが強奪しようとしてくるのだ。 でもそもそも、うちの夫は蛇妖怪で通ってるものの、山神さまなのだが……? しかし俺は山神の頭黒ではなく、頭黒自身が好きなのだ。だから頭黒の神の顔は使うまい。やるなら自分で完膚なきまでに追い払う。 「おやおや、受けには尻軽と言う言葉はありますが、攻めにはありませんでしたね。今度【物語】にて広めてしんぜましょうか。その時は是非お読み遊ばされませ」 てめーの棒軽物語広めてやっから覚悟しろ。 そしてさすがに俺に接触してくるからには俺の物語の知名度を知っていたのか、武官は血相を変えて逃げていった。 さらにその後略奪婚目当ての彼をモデルにしたざまぁ怪奇の話を中宮さまにすると、構わないやっちゃってサインが出たので、容赦なく書いて世に出させていただいた。 そうして噂が広まり、帝の前でその話が出て罰が悪くなったその男は……いつしか田舎に帰っていったらしい。 しかしそのお陰か、略奪婚に世間の目が厳しくなったのも事実なので……少しは世の受け男子たちのためになっただろうか。 そしてそんな楽しい毎日を送りつつも……。 「ずーぐろっ」 襖を開けた中ではぬくぬくな布団を纏いながらすやすやと寝息を立てるかわいい旦那さまがいる。 蛇だからなぁ……今は冬眠なのだ。とは言え妖怪や神さまのたぐいだから半冬眠の状態。鴇白さまは中宮さまの寝所で、アオダイショウたちはお気に入りの人間の寝床にお邪魔してるらしい。そんな彼らだが、昼間は数時間起きている。 「うむ……伊月……近う……」 眼を擦りながらもう片方の手を動かしながら俺を呼ぶ頭黒。隣にぽすりと腰をおろせば、すかさず頭黒が抱き締めてくれる。 「ふふ……っ。ずっとこのまま抱き締めていたいな」 幸せそうに頬をすりあわせ、時折唇を這わせてくれる。 「夜は隣で抱き締めながら寝てるよ」 頭黒は休眠に入っているから、なかなか起きられない。 「でも……伊月が堪能してる記憶がない」 それが悔しいらしくて。 「春になっても、堪能するから」 「春だけじゃ寂しい。夏も、秋も」 うん。夏は夏で蛇体がひんやりしていて気持ちいいんだよな。あんまり夢中になっていると本体の方が拗ねるが。 「もちろんだよ」 「それじゃ……今も」 「うん」 頭黒が起きている間も目一杯抱き締めて、撫でなでして、口付けを贈れば。 お返しとばかりに、俺の頬や唇、首筋にまで頭黒の愛の印が降り注いだ。 春になったら……冬の間我慢していた分もっともっと甘く蕩けそうだが、それも悪くはないかなぁと思うのだ。 【完】
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