辛辣巫子召喚

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辛辣巫子召喚

――――ここは、どこだ……?俺、森縞(もりしま)伊月(いつき)はその日、家の襖を潜ったら突如、見ず知らずの空間にいた。 日本家屋に雰囲気が似ているが、今時こんなにも和装コスプレな男連中に囲まれることなどあるだろうか……?実家もザ・日本家屋だったが、茶道と華道と弓道以外は普通に洋装だったよ!? 「あぁ、ようこそお越しくださった……!巫子(みこ)さま……!」 しかも……何だ……?みこ……?俺男だけどな……? 「いえ、頼んでませんけど」 ひぃんっ。ついつい癖で辛辣文言が……っ。これはそのね、現代日本にもそう言う世界もあるってことです。厳しく育てられましたからねー。お嬢さまならぬお坊っちゃま教育の賜物ですよー。スパルタ辛辣教育ありがとさんー。 まぁ、弟妹たちを同じ毒牙にさらしたくなかったからその家庭教師には盛大に恥かかせて実家から追い出しましたけどぉー。アッハッハッハ。しかしながら、今のこの状況を何とかしなくては。 「そんなこと仰らずに……!巫子さまには是非ともお頼み申したいことがあり、召喚させていただいたのです!」 「は……?事前にアポとってから召喚してくださいます?」 いや、無理だろそんな召喚~~っ!?……と、思いつつも召喚ってこう、パッといきなりされるもんってのがテンプレだけど。 「しかし、こちらの世界も危機にひんしておりまして」 こちら……と言うことはやはり異世界か。和風異世界ねぇ……。 「ではあなた方は地球の危機に逆召喚してくださるので?」 「い……いや……召喚は一方通行なので、巫子さまの世界には戻れませんし、渡れません」 帰れないのもテンプレかぁ……。 まぁ、実家には弟もいるし、妹は深窓の精神ゴリラだから、お兄ちゃんがいなくても2人で協力しあって生きて行って欲しいものである。 「ですがその分、巫子さまを大切に庇護させていただきますそして!」 慰謝料代わりってことか?そして何だよ展開早いな。 「巫子さまには、春宮(とうぐう)の妃になる権利が与えられます」 そう和装男が言った瞬間、俺の前にふわりといい匂いを纏った和装美男子が現れた。春宮って……確か帝の長男ってことだよな。 西洋ファンタジーで言えば王太子。和風ファンタジーに於ける巫子或いは巫女が西洋ファンタジーに於ける聖女のような立ち位置だとすればテンプレと言えばテンプレである。 「みなのもの、ようやっと迎えた巫子さまである。控えよ」 春宮がそう告げれば、俺を取り囲んでいた男たちがサッと後ろに下がり、跪く。 「巫子よ。そなたにはこの都を騒がせる化け物……邪悪な黒蛇を退治してもらいたい」 いきなり何を言い出す。確かに弓は得意だが、蛇……蛇ねぇ。 シュタタタタッ それよりもさっきから気になっていることがある。 「そのあかつきには、見事に私の更衣として迎えよう!それまではこの召喚の間が仮住まいになるだろうが」 いや、退治しなきゃ妃にしないのか。そして妃の中でも一番下の更衣とは……。 それならば、こやつの妃は全て化け物退治を完遂してきたのだろうか?その上の女御となれば九尾の狐とか鬼とかもっとすごいものを退治しなければいけないとか……? ――――しかし。 シュタタタタッ。 ――――はぁ。 「このようなネズミだらけの場所に住めと?そんなことをするならその化け蛇連れてきて飼った方がおつむが良くなるのでは?」 つまりこの訳は……『お前蛇よりバカなの?』。 「な……なんと恐ろしいことを……っ!」 あのなぁ。飼育されてるハムやモルならともかく、野生のネズミとか危険すぎる。むしろそっちの方が恐ろしいわ。 「蛇はこの世界では不吉」 そうなのか……?同じ和風でも違うもんだな……? 「蛇が屋敷の中に入っただけで恐怖!すぐに追い出さないといかんっ!」 「その……灰緑色っぽいのもですか?」 「知っておるか!やつらはアオダイショウと言ってな……!特にその中でも白は恐ろしく……」 「神さまやろがいっ!」 べしっと行ってやった。頬一直線にはたいてやって、思い出す。そういやこやつ……春宮だった。 名家のお坊っちゃまがはしたないことを……でも、俺は間違っていないと思うのだ。 「な……何をする!私は春宮で……っ」 「だまらっしゃい!」 「ひぃっ!?母上っ」 いや、誰がお前のかーちゃんだ。てかこの世界、男ばかりだが、こいつの母親も男なのだろうか……? 「とにかくネズミの駆除だ。ネズミの駆除!俺は黒蛇を……飼う!!」 実家では反対されて飼えなかったけれど、この世界なら蛇を飼うと言う夢が叶うのかもしれない。 「な……何を言っている!相手は邪悪な……っ」 「じゃぁあなたは屋敷内がネズミだらけでも良いと……?そのうち化けネズミに食われないようお気をつけ遊ばされませ」 「こ、この私に、食われる……だと!?私を殺そうとしているのか!」 化けネズミがな……? 「おい!この巫子は偽物だ!この私に危害を加えようとしている……!捕らえよ!」 ま……マジかよ……!頭おかしいのかこの春宮……! まぁ日本でも頭おかしいボンボンはいたが……!遠回しにバカなのって言ってやったこと多数だが……!? 「お待ちなさい」 その時、鋭い声が響き、俺に飛びかかろうとしていた武官たちが止まり、春宮がビクンと震える。そこにいたのは……十二単の……美男だった。 「あなた……ネズミの駆除と、言いましたね」 「え、えぇ」 「あなたにそれができると……?」 「もちろん」 「良いでしょう。思う存分やってみなさい」 「そんな、母上!」 春宮が叫ぶ。 マジかよ、春宮のあれ母ちゃんかよ。本当に男だったぁ~~っ! 「巫子に道中の護衛武官を何人かつけましょう。早速黒蛇ちゃんのところへ赴き実力を示しなさい」 「は……はい!」 やれやれ、息子はバカでも母親は聡明だったようである。 こうして俺は化け蛇の元へと赴いた。
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