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中学生になった辺りからだろうか。最近、息子が顔を合わさなくなった。
部活で帰りが遅いからというのもあるが、家にいる時間がめっきり減った。
家に帰ったら帰ったで、基本的に部屋に籠りきり。部屋に入ろうとすると怒るので、余程の用がない限りは立ち入らないようにしている。
顔を合わせるのはせいぜいご飯の時くらい。その時だって、私が二言三言話しかけて終わるのが常だ。
とはいえ、過剰に反抗するわけではない。
親子関係に亀裂が走るようなことがあったわけではないので、単純に年齢的な隔たりが出来たのだろう。いわゆる思春期というやつだ。
(私にも、そんな時期があったな)
私もまた、中高生の頃は母から意図的に距離を置いていた。
さしたる理由はなかった。ただなんとなく、母に世話を焼かれるのが鬱陶しかっただけ。今の息子を見ていると、あの時の私とびっくりするほど重なるのだ。
だから私は、あえて何も言わない。
無理に距離を詰めるのではなく、ただ身の回りにいる。そこにいるのが当たり前なくらいに、息子の日常の一部として。
今は、それで充分なのだ。
そんなことを考えながら、私はキッチンに立った。
窓から差し込む朝の光が、二つの弁当に降り注いでいる。
弁当は、私と息子の二人分。
そして私の弁当の傍らには、一枚の紙切れが置いてあった。
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