喫茶ブルーローズ

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 そして3年目。世界がようやく落ち着いたころ、私は帰任のため、6度目の引っ越しをした。元居たあの街に。あの喫茶店は、ブルーローズは、もう無いけれど。         ***  それでも、もう一度あの喫茶店(のあった場所)へと進む。きちんと、向き合うために。  そこに、空き地はもう無かった。代りに、両隣のビルに挟まれてひどく窮屈そうな、細長い6階建てのビルが建っていた。1階の窓と扉の様子を見て、はっとする。レトロな雰囲気の外装。カフェの看板。そこには、喫茶ぶるうろーず、とあった。         ***  そんなはずはない、と思いながら、それでも気持ちが抑えられずにその扉を押した。カラン、と、懐かしいドアベルの音。見回すと、あの長年慣れ親しんだ内装がそこにあった。鼓動が速くなる。ああ、私はあの空間に戻って来た—。 「いらっしゃいませ」  だけど、出迎えてくれたのは、おばさまとマスターではなく、若い男性だった。
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