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家賃も手頃な「恋が丘ヒルズ」を引っ越し先に選んだ。2階建てで外装をリフォームしたばかりの建物を好美は気に行った。 引っ越しは想像以上に大変だったが、いざ 部屋が片付くとやり遂げた 達成感で胸がいっぱいになった。 まだ昼間だが、ベッドに思い切り手足を伸ばして大の字になってみた。窓を開けて入ってくる 風が心地いい。しかし 、外から男女の争う声が聞こえる。声の様子からして中高校生ぐらいだろうか。 「私のこと愛してるって言ったじゃない」 女の怒りに震えた声が響き渡る。 それに 男の声が続く。 「もう愛してない」 「ひどい、いつから 愛してないの」 「愛してない」 「なんで?愛してるって言ってた」 「もう違う」 「いつまで愛してたの?」 興奮する女性の声に男性が答える。 来ました。恋愛 猛者たちの日常。 次の返事が気になって好美は体を起こす。 窓の外を探偵並みの注意深さでのぞく。 しかし男女の姿に目を疑う。 「幼稚園の頃は 愛してた!」 なんと駐車場で小学校1年生ぐらいの子ども達が喧嘩していた。男の子は声を張り上げて しつこい女子の追求に観念して答える。 恋愛レベルが高すぎる。さすが 恋が丘。 幼い頃からこんなに高度な会話をするとは この世に生を受けてわずか数年しか生きていない子どもが、恋愛に身を委ねている。 こうしちゃいられない。私も早く恋せねば。しばらく ぼんやりしていたが、今日は友人が引っ越し パーティーを開いてくれるので1時間後にやってくる。部屋には大した物がない。好美は起き上がり 近くのスーパーにせめてお菓子を用意しようと買い物にでかけた。
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