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葉山君は狼狽えた表情で私の名を漏らした。
立ち聞きするつもりではなかったけれど、結果そうしてしまったのは確かだし私もばつが悪くて目を泳がせるしかない。
「あの、聞いていたの? 」
「えっと、たまたまと言うか。今日私は水撒き係なので」
正しい言葉になっているか分からないけれどそう答えながら立ち上がる。
葉山君の顔が改めて真っ赤に染まるのが分かった。
「大丈夫、誰にも言わないから」
瀬野さんを振ったとあれば多くの男子から反感を買いかねない。これは私にとってかなり譲歩した言葉だった。
あんなに思いのこもった『歌』を向けられながら、受け取れなかったからって赤面する程度でいるのがちょっと許せない。けどそれは葉山君が悪い訳じゃないのも分かってる。
逆に葉山君が『歌』を理解できていたなら今好きな相手から目を向けてくれただろうか。あの熱い思いを受け止めてくれたのだろうか。
私はあまりにも胸に迫るあの歌を思い、ちょっと上にある葉山君の目を少しだけ非難を込めて見上げた。
瀬野さんがあんなに毎日葉山君を気遣って『歌』を教えていたのに、あんなに毎日葉山君を見ていたのに。分かってる。葉山君の障害を責めるのはおかしい。けどこんなのってない。私は瀬野さんの歌に本当にドキドキしたんだ。胸を焦がしたんだ。狂おしい程に葉山君の事が好きなのか全部わかったんだ。私まで葉山君が好きだって思えてきてしまう程にだ。
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