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夕日が差し込むそこは普段生徒が立ち寄る事もない寂し気な場所。
理科室からも美術室からも近いからか割とちゃんとした花壇には花が揺れているけれど、だからって昇降口からも距離遠いそこに今日日中学生が興味を持つ訳もなくて、私が来たのも文化委員の当番で水撒きに来たからだ。
物置からじょうろを引下げた私は校舎の角を曲がる前に聞こえたその歌声に足を止めた。
情熱的でありながら澄み渡る声、しなやかな素直さと裏腹な硬質な一途さ。
私はそのあまりに熱烈で華やかな恋心に震えて、息をのむと共に紅潮した。
思春期の少女が初めて抱えた気持ちを、大きな不安と恥じらいを一抹の勇気でかろうじて抑え込みつつ真っ直ぐに向けている。
知っている声だ。
誰にでも分け隔て無い瀬野さんが誰か一人に対しこれ程までに気持ちを向けるなんて誰が想像でき様。
とんでもない場面に出くわしてしまった。
ただ私は立ち去ることが出来なかった。
彼女が思いを告げた相手が、葉山君だったから。
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