1人が本棚に入れています
本棚に追加
新たなる世界へ
「先生、大丈夫ですか?」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「雄二、しっかりして」
「渡辺さん、渡辺さん、おい、救急車を呼べ」
「はい、田中さん」
そして、渡辺は病院へと搬送された。
「先生、渡辺さんの状態はどうでしょうか?」
「そうですね、疲労がかなり蓄積されているんじゃないかな?」
「単なる、過労だと思いますが、しばらく様子を見た方がいいですね」
「琴音さんといったかしら、雄二は私が世話をするから、もう大丈夫よ」
「田中さんと一緒に日本に帰りなさい」
「嫌です。私も先生のお世話をしたいです」
「琴音ちゃん、ミレーゼさんもいることだし、今回は日本に帰ろう」
「わかりました……。ミレーゼさん、お願いしますね」
「大丈夫よ。私にまかせておいて」
「はい……」
「琴音ちゃん、大丈夫だよ。主治医の先生も過労だと言っていたから」
「はい、田中さん」
「田中さん、理恵子さんはどうするつもりですか?」
「ああ、ミレーゼさん、理恵子さんは川崎さんの家は帰します」
「記憶が戻り、実家に帰りたいでしょうし、そうすべきです」
「そうですね。それがいいと思います。雄二は私に任せてください」
そして、田中、理恵子、琴音は日本に帰ることになった。
先生、どうか、よくなってください
琴音は先生のことが気がかりでなりません
先生はやはり、ミレーゼさんのことが好きなのですか?
琴音に好きだって言ったのは何だったのですか?
やはり、先生のことが好きだし、先生の本当の気持ちがわかりません
でも、それもですけど、お姉ちゃんがいなくなったの
どこかで、元気にしているといいのだけど
琴音らの願いが届いたのか、しばらくして、渡辺は意識が戻った。
そして、回復した渡辺は決心した。
「ミレーゼ、申しわけないが、僕との結婚はなかったことにしてもらえないだろうか?」
「どうして、雄二、そんな悲しいことを言うの」
「僕は日本でやるべきことがある」
「理恵子さんのことかしら?」
「ああ、そうだよ……」
「それだけじゃないでしょ? 水江さんのことが気になっているのでしょ?」
「申しわけない。そのとおりだ。それに僕はもう演奏家としては通用しないじゃないか……」
「それは……でも、私は雄二のことを愛しているわ」
「わかった……雄二。雄二のことは諦めるわ。やはり、水江さんへの想いには勝てないわ」
「申しわけない。ミレーゼ」
「いいのよ。雄二が幸せになってくれたら……」
「ミレーゼ……」
「でも、忘れないで。雄二のことを一番愛しているの私よ。だから身を引くわ」
「すまない。ミレーゼ」
「そのかわり、最後に私を抱きしめて。優しくていいから」
「わかった」
渡辺は日本へと帰ることになったが、その前にマエストロにも挨拶をしにいくことになった。
「マエストロ、実は……」
「いや、それ以上言わなくていい」
「聴力が落ちたからじゃないだろう?」
「はい、それもありますが……」
「だが、そういうわけにはいかないのだよ」
「どうして、マエストロ」
「それは理由がある。私は実は……」
最初のコメントを投稿しよう!