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暗雲
「お母さん、琴音の部屋から何か大きな音がしたわよ」
「大丈夫かしら」
「行ってみましょう」
琴音の部屋へ水江と母親は向かった。
「琴音、大丈夫、しっかりして」
「琴音、琴音」
「お母さん、返事がないわよ」
「すぐに、先生を呼びましょう」
「そうね」
しばらくして、医者が現れ琴音の診察をした。
「どうやら、意識がないようですね。これはただの貧血じゃなさそうだな」
「先生、どうすればいいですか?」
「お母さん、布団でしばらく寝かせて様子をみるしかないですね」
「明日、大きな病院で検査を受けましょう」
「はい、わかりました」
総合病院にて
「先生、琴音はどうでしょうか?」
「検査をしたのですが、どうやら、悪性の脳腫瘍だと思われます」
「じゃあ、治らないのですか?」
「生存率は極めて低いです」
「そんな、先生……」
「残念ながら、しかし、治療を続ければ奇跡が起こるかもしれません」
「あきらめないでください」
「琴音さんにはこのことは、言わない方がいいでしょう」
「はい、わかりました……」
琴音は意識を取り戻した。
「お母さん、ここは何処? どうして、私は此処にいるの?」
「琴音はね、目まいで倒れて、病院へ運ばれたのよ」
「お母さん……」
「どうしたの?」
「ううん、いいの……ありがとう、お姉ちゃんまで来てくれて……」
「でも……」
「どうしたの? 琴音?」
「ううん、いいの。だって仕方ないから……」
「琴音……」
「いいのよ。お姉ちゃん、気にしないで」
「琴音はしばらく、この病院で入院することになったの」
「そう……ピアノは弾けないのね」
「そうね……」
「私はピアノが弾ける日が来るかしら」
「どうして、そんなことを言うの?」
「なんだか、そんな気がするの……」
「来るに決まっているでしょ……」
「お母さん、どうして、泣いているの?」
「琴音はどこか悪いのでしょ?」
「わかるの。なんとなくそんな気がするのよ」
「琴音……」
「お姉ちゃんまで、泣かないで、私も辛くなるでしょ」
「私の命は短いのね……」
「そんなことないわよ……」
「お母さん、いいのよ。なんとなくわかるのよ」
「でも、先生に会いたいな」
「もう、会えないのかな……?」
「そんなことはないわよ」
「お姉ちゃん、先生には黙っていて」
「どうして……?」
「だって、先生は優しいから心配するでしょ」
「琴音は考えすぎよ」
「そうかな? お姉ちゃん。琴音はね、なんとなくわかるの……」
「だから、シロも心配そうな顔をしていたのね」
「気のせいよ……琴音」
「そう……?」
「そうよ」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「お姉ちゃんは優しいのね」
「琴音……」
「大丈夫よ。お姉ちゃん。琴音は頑張って治療するから」
「そうよ」
「うん」
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