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私たちが向かった部屋は奥にあった。引き戸を開けるとうって変わってテーブルに椅子だけが用意してあり、何もないシンプルな部屋だった。装飾品など何もない、まったく味気ない感じの部屋だった。
三人は椅子に腰かけると老婆が台車に何かを乗せて持ってきた。
「この部屋は何もないんですね。まるで違うところに来たみたいです」
そうハルナが老婆に聞いた。
「はい。この部屋は静かに食事が取れるようにするために、このような作りになったと聞いています。ですから……」
老婆がいきなり手を叩く。すると部屋中に音が反響し、耳に痛いくらい響き渡った。
「すごい、響く。怖いくらいですね。小さい音でも聞こえそう。でもこんな風にしない方がもっと楽しめるんじゃないですか? ほら食事って周りの環境も美味しさに影響するっていうから。せっかくの民宿なのに……」
私は正論を老婆にぶつけてみた。
「そうですね……でもきっとこのように何もない部屋の方が美味しく感じると思いますよ」
老婆は笑いながらテーブルにケーキを置いた。
「今日はユカリ様のお誕生日ということで……」
「えっ?」
私は驚いた。
「へへへ……これは私とカナからのサプライズよ」
「そうなの! 嬉しいありがとう……」
蝋燭に老婆は火を灯す。
「じゃあ、明かりを消しますね」
そう言うと老婆は部屋を出て明かりを消した。真っ暗になる部屋は蝋燭の灯りだけが頼りになる。ハルナとカナは手拍子をしながらハッピーバースデイの歌を歌う。歌い終わった。
「おめでとう。じゃあユカリ、吹き消して」
「フゥー」
私は一気に蝋燭に息を吹き掛けた。炎は瞬く間に消えて一瞬で部屋は真っ暗な暗闇に覆われた。
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