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五日目・探索パート⑤
今、頭が痛いのは口裂け女と人面犬、タイプのちがう都市伝説に追われていること。
口裂け女は反則的な俊足とあり、回避方法やアイテムを用いた作戦がなければ(まさにチロルチョコを失った今の俺の状態)その視界にはいったら即アウト。
なので、足音代わりの水音で位置を探りつつ、時間をかけて進むのがベスト。
人面犬は、ふつうの犬並の脚力だが、どれだけ目くらまししようと、匂いを辿って確実に追ってくるのが厄介。
ゴミの匂いで誤魔化しても、いちど見つかったら「俺イコール腐臭」と再認識され、また体臭を変化させない限り、どこまでもストーカーしてくるだろう。
できれば発見されないようにしつつも、ちょこまか、すばしっこく走る相手なら、とどまっていては遭遇率が高くなるに、こちらも走りまわって足を止めないほうがいい。
二人それぞれの対策は、どちらかを優先すると、どちらかに捕まってゲームオーバーという。
「じり貧だな!」と嘆きつつ、さらに頭を抱えたいことが。
なあなあ、まったく、うれしくないサプライズをしてくれた鬼畜ゲーム制作側さんよ!今回の目的地ってどこよ!
はじめに想定していたのは、篠原さんからもらった山の地図、そのペンで塗りつぶされていない部分。
人さらいの根城があると疑わしい場所だったはずが。
チロルチョコも底をついた今、着の身着のままで山奥に行けってか!?
それとも家にもどって、準備万端のまま放置されたショルダーバックを持ってこいと!?
探索パートで家にもどったことは一回もなくて、見えない壁があるかないかも分からないのに!?
一旦、帰宅して山奥にむかって探索をしたら、夜の間には帰ってこれないんじゃないか!?
ゲーム制作側にぎゃんぎゃんクレームする形で考えると、どうにも、今回の目的地は山奥でない気がしてくる。
といって調査パートでほかに目的地があるような示唆は、ほとんどなかったが、一応、記憶を掘りかえしてみて。
今日の探索パートのテーマは「口裂け女の噂にかこつけて外国が日本に工作をしかけている疑惑」。
具体的なネタを提供してくれたのは篠原さん。
こうして実際、俺が拉致されかかったとなれば、彼女の「カケオチでない説」は当たっていそうだが、ただ、その説も丸丸、嘘でないのかも。
なんて考えるのは、拉致犯の一人にヒッピー風の若い男、口達者で色男の部類にはいりそうな日本人がいたから。
そう、噂の「母親が失踪するまえに若い男と会っていた」に該当するような。
もしかしたらカケオチより、もっと訳がわるいのでは?
篠原さんの母親は男の正体を承知しているどころか、キョ―サンシュギに染まって云いなりになったとか。
まあ、さっきの拉致犯たちのなかに女の人は見かけなかったし、いくら男に惚れこんでも、娘と同い年の子供を攫うのにのりのりで加担するとも思えないし。
ヒッピー風の男や工作活動をする仲間と揉めて、その身になにかがあった可能性がある。
ということは、今回は所縁のある地にいくのではなく、篠原さんのお母さんを探しだすか、安否を確認するか、失踪の真相を解きあかすのが目的なのかも。
いや、それにしたって、ノーヒントの放置プレイですか!?
事前情報ゼロで、一体、どうすれば、よろしいので!?
相かわらず不親切なゲーム制作側への殺意が煮えたぎって、舌打ちをしようとしたら。
犬の忙しい呼吸音と、爪でアスファルトをひっかく音が。
どうやら、匂いを正確に辿れなく、一周してもどってきたよう。
口裂け男と固唾を飲みつつ、聞き耳を立てれば、ゴミのボックスのまえをうろうろしてから、かりかりと道路以外に爪を立てている?
しばらくして諦めたのか、あっという間に走りさって、まだ静かに。
蓋の隙間から覗いてみると、むかいのブロック塀に引っかいた跡が。
おそらく口裂け男が、あのブロック塀のむこうに俺のTシャツの切れ端を投げたから、人面犬は跳び越えたかったのかもしれない。
未来で調べた都市伝説では、時速百キロで走ると云われていたが、今の人面犬には超常現象的な身体能力はないらしい。
人の顔をしている以外、並の犬と変わらず、猫のように身長以上の高い塀にはのぼれないと。
外を観察して判明したのは、それだけだが「口裂け女とちがって半分人間であり、未熟な都市伝説なら、物理の法則が効くだろうし、なんとかなるかも」と活路を見いだしたような。
早速、このとっかかりをもとに脳内で一人作戦会議。
とりあえずの目標と、それを成すための計画の大筋を見いだすと、ゴミのボックスをでたあと口裂け女と人面犬に、瞬発的にどう対処すべきが頭をひねって。
なんだかんだ推測を基にした賭けの部分が多いとはいえ、このままゴミに埋もれて怯えるだけで、ゲームオーバーになるわけにいかまい。
せっかく危機一髪で助けてくれた口裂け男にも申し訳ないし。
蓋を睨みつけ、外の動向を探っている彼の、ワンピースの裾を引いて「ねえ、聞いて」と一人作戦会議した内容をつぶさに伝える。
そして、外にでて彼にしてほしい行動の仕方も。
「ちょっと大変だけど、俺と背中合わせになって手をつなぎながら、後退してくれないかな。
で、もし、口裂け女か人面犬を見かけたら、つないだ手に力をこめて爪を立てて。
俺はここらの、逃げるルートや抜け道をいくつも頭にいれてあるから。
瞬時にそのときそのときに適した判断をするし、手を引っぱったら、瞬時に応じて、いっしょに走ってくれる?」
うなずこうとして、ぴたりと固まる口裂け男。
やおらマスクを外し「わたし、きれい?」と口が裂けた跡と縫い糸を見せてにっこりし、そそくさと再装着。
目をぱちくりしつつ「ああ、そうか。挨拶がまだ、だったからな」と苦笑。
「一生、ゴミ袋に埋もれていられないから、やるっきゃない!」と気丈にふるまいつつも、膝が笑ってやまないほど、緊張と恐怖で体が凝り固まっているようだったから。
おかげで適当に肩の力がぬけて、心身がほぐれたに、四日目のように重要な局面で、すっころぶヘマをすることはないだろう。
やや脱力したのを、深呼吸して顔を引きしめなおす。
蓋の隙間からあたりを覗き、物音がせず気配がないのを確かめてから、丸めていた背中を力強く伸ばして。
さあ、いざ尋常に、口裂け女と人面犬、都市伝説ツートップのような二人が追撃する最恐サバイバル鬼ごっこに。
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