五日目・探索パート⑥

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五日目・探索パート⑥

ゴミのボックスにはいるまえは夕日がしずみかけていたに、もたもたしてから外にでると、とっぷり暗くなって。 まだ地平線あたりが明るいとはいえ、外灯のついた住宅街は寂しげな心もとないような夜の模様に。 着の身着のまま攫われて、もちろん懐中電灯はなし。 まあ、等間隔に外灯があるし、伸びる人影で接近する相手に気づけそうだから、かまわないだろう。 口裂け男と手をつなぎ、背中合わせのまま小走りに、すすんでいく。 俺は前進、彼は後退して。 走りつづけていると、口裂け女との遭遇率が高くなり、足音代わりの水音を聞きのがす危険があったが。 しばらくは大丈夫そう。 拉致犯の男たちの悲鳴が、たまに耳についたから。 六、七人いた彼らが彼女を引きよせている間、俺らは安全だし、断末魔の叫びで、おおよその位置も把握できるし。 当面は、人面犬の警戒に集中しつつ、急ぎ足でゴーストタウンへと。 運よく、ゴーストタウンにもどるまで見つかることなく、とくにトラブルもなく。 ほっと一息ついたのもつかの間、口裂け男が手に力をこめ、俺の手の甲に爪を立てた。 さっき遠くで「ああああああ!○▽■※×・・・!(外国語だが命乞いしているよう)」と聞こえたに、彼が見とめたのは口裂け女ではなく、人面犬。 すこし後方にT字路があるに、その左右の道どちらかから跳びでてきたのだろう。 距離は近いなれど、焦らず慌てず息を乱さず、足をもつれさせず振りかえりもせず。 手を放したなら、あらためてロケットスタート、全力疾走し、口裂け男よりやや先んじて近くの狭い横道にはいった。 外灯のない暗く狭い道はまっすぐで、人面犬の息づかいと爪の摩擦音が迫ってくる。 距離は縮まるばかり、しかも、道の先は行き止まり。 「やっべえ!詰んだ!」わけではなく「車から塀にのぼって!」と隣を走る彼に指示。 一足先にボンネットに跳び乗り、フロントガラスを踏みしめ屋根へ、そして塀の上へと。 すばやく、あとにつづいた口裂け男と二人で塀の上に乗ったまま見下ろすと、もちろん人面犬も車を踏み台に、跳びついてこようとした。 が、キーキー耳障りな音を立てて、車を爪で削るように滑りに滑って、ついにはバランスを崩し、道路にすってんころりん。 そう、犬は車の表面など、つるつるした素材のものの上では、まともに運動できず、立ってさえいられない。 猫のように爪をだしたり引っこめたり、器用にできないから。 都市伝説で云われるように「時速百キロ走る」ほどの運動能力はなく、その走りっぷりはふつうの犬並。 といっても駆けっこでは俺らのほうが(口裂け男の運動能力も人並みだし)不利で、だったら三次元に逃げこもうと。 人のいない建物ばかりのゴーストタウンだから、できる戦法だ(使用していない建物、その敷地のぐるりに見えない壁がないから)。 計画どおり、ことを成し遂げたのに胸を撫でおろすも、早早諦めた人面犬が背をむけ猛ダッシュしたに「俺たちも急ごう」と塀のうえを歩いていく。 たしか、このまま歩いていけば、開けた道にでて目的地に近づくはず。 その道に至るまで人面犬はかなり遠回りしないといけなく、今のうちに離しておきたいところ。 外灯の届かない真っ暗闇のなか、狭い幅の塀の上から落ちないようにしつつ、できるだけ早く家と家の隙間から脱しようとし、見えてきた出口。 ちょうど付近に外灯があり、スポットライトが落ちているような一角。 そこを歩いて横ぎる女性が。 思わず足を止めて、背後の彼に待ったとばかり手をあげる。 隙間から一瞬、覗いただけで、あちらは気づかなかったようとはいえ、心臓ばくばくに冷や汗をかき、身じろぎせず息を飲む。 口裂け女?と思ったが、襲われた男の悲鳴は、ついさっき、あさっての方向から聞こえた。 瞬間移動した、とは考えたくないし・・・。 いや、そもそも体格や格好、雰囲気が彼女らしくないような。 白いワンピースではなく、ヒッピー風の服装で、ただ若そうでなく、人混みでもみくちゃにされたように髪や服が乱れていた。 なによりマスクをしておらず、裂けた跡は見えなかったが、口元が血まみれ。 ヒッピー風の格好といえば、外国の工作活動を手伝う、あの日本人の男(今は人面犬)。 あいつの知りあいかキョ―サンシュギの仲間か、恋人なのか? ただ、厚顔で不敵な男と釣りあわず、派手な格好をしながらも、しおらしく弱弱しいように見える。 生気がなさそうでもあり、口裂け女とはまた別種の怪異的な存在?と疑ってしまい。 三日目の「二口女」につづき、前触れなしの新キャラ投入。 「ほんと飽きさせないな!悪巧みが尽きない鬼畜ゲーム制作側!」と感心するような憎らしいような、まあ、とりあえず正体不明のうちは会わないほうがいいだろう。 途中までは急いでいたのを、謎の女性を目撃してからはゆっくりと足を運び、アスファルトに降りたなら家の塀にはりつき通りを窺う。 さっき見かけた女性は十字路に行き当り、左に曲がっていった。 「俺が行きたかったルートなのに・・・」と舌打ち。 左に曲がっていくルートは目的地に最短距離で辿りつけるもの。 直進するか、彼女の進行と反対方向から行けなくもないが、比べてけっこうな時間がかかる。 おまけに遠回りしてくる人面犬との遭遇率も高い。 得体のしれない女性のあとを追うか、追手と鉢合わせになるリスクを負って、回り道をするか。 あらたな俺の体臭を覚えた人面犬が刻々と迫っているなか、腕を組んで唸って、じっくり迷い悩む暇はなく。
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