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五日目・調査パート③
母親が失踪し「カケオチ」と認めたくないがあまり、ヒステリーになって学校では腫れもの扱い。
そのわりに近くで噂されても澄ました顔をしたままで、あきからにその件で呼びだされたというのに喧嘩腰で噛みついてこず、粛々とついてくる。
悟った坊さんのように大人しいのが、むしろ不気味だが、その思惑を探る暇はなく。
屋上の出入り口がある踊場で、あらためて向きあい「お母さんについて、なにか新しく分かったことある?」と率直に質問。
「わたしを茶化してんの!?」と気色ばむことなく、無表情でしばしだんまり。
今更、警戒して鉄壁のガード?
だったら、どうして俺の誘いに乗ったの?
それとも俺の聞きかたがまずかった?
といって、休み時間終了までの短期決戦となれば単刀直入に質問するしかなかったし・・・。
声にださずとも、やきもきするのが、もろバレだったようで。
すこしして苦笑し、表情を和らげた彼女は「あなたは、ほかの人とちがうのね」と。
「わたしを手に負えない精神病患者のように見ていないし、さっきの質問のしかたからして、陰謀論を一から百までホラだとも思ていないんだ」
そりゃあ、そうだ。
なんたって、俺が生まれたころには、あの国の拉致は常識になっていたから。
決して俺の妄想ではなく、とっくにお隣の国は拉致を認めて謝罪し、五人の日本人を帰したという既成事実もある。
と胸を張って伝えたいところだが、常識化したのは、これから二、三十年後のこと。
かなりのジェネレーションギャップがあるというか、この時代は取りつく島もなく「被害妄想」と一蹴されている状況にある。
母親が拉致被害者の可能性がある篠原さんにしろ、未来の真実を語る俺を、白い目で見るかもしれないし・・・。
「ほかの人とちがうからには、なにを知っているの?」と突きつめられたら、なんと応じたらいいかと、身がまえたのだが。
詳細はどうでもいいらしく「わたし、独自に調べているの」と遠い目をして彼女は語りはじめる。
「警察は捜査をしてくれないどころか、肩をすくめて鼻で笑うしまつだし、父さんは『忘れろ』の一点張りだし、わたしに探偵を雇うお金なんてないしね。
高校生にできることなんて高が知れているけど、案外、そう難しくなく、重要な手がかりを見つけた。
発想は単純だったのよ。
例の国は海のむこうにあるから、山を越えて海辺の町に行ってみようって。
で、べつに目的もなく、海辺の砂浜を歩いていのを漁師さんに声をかけられた。
『女の子が、一人でいちゃあ攫われるよ』って。
驚いて詳しく聞いてみたら、そこの町では海辺にいったまま帰ってこなかった人が多いし、怪しい男たちが慌てて船をだしているのを目撃した人もいるんだって。
じゃあ、どうして警察が捜査に乗りだしたり、報道で注目されたり、すくなくとも噂が広がって、注意喚起する看板が立てられたりしないの?って思うじゃない。
漁師さんが云うには、警察や報道については知らないけど、ここらへんの土地は昔から人さらいに狙われやすいんだって。
もともと海辺自体が、危険な場所らしい。
船をだせる海路は、陸路より多くの人を運べるし、海にでてしまえば、追手は見つけるのも探しだすのも、とっても困難だから。
それに人さらいにとって、近くに山があるのもいい。
船がだせない日は潜伏ができるし、町の人にばれたとして、山にはいれば、追手をまくことができるから。
しかもね、山を挟んでの二つの地域は昔から仲がわるいじゃない?
今だと警察の縄張り争いもあって、そうやって睨みあって喧嘩しているうちに、人さらいの尻尾がつかめなかったりするんだって云ってた」
陰謀論とちがい、今の情報は簡単に裏どりができるから嘘はつきにくいだろう。
篠原さんが、そんな嘘を吐いて得をすることもないし。
それにしても、山を越えての遠くない町で、人の失踪が絶えないというに、よくもまあ、篠原さんのお母さんの失踪について「カケオチ」以外の可能性を考えないものだ。
でもって、またもや警察や報道の出番なし・・・。
情報が錯綜しているにしろ、不確定でもかまわず報道するマスコミがだんまりとあっては「あなたたち、職務怠慢じゃありません!?」と追求したいところ。
証言とそんな現状からして「しょせん陰謀論だ」の一言で済まされないように思え、眉をひそめると、どう受けとめたのか、彼女は目を細め、ポケットから紙をとりだした。
広げて見せてくれたのは山の地図のようで、いくつか線がひかれ、塗りつぶされている。
「漁師さんの話を聞いて、もしかしたら誘拐犯たちが潜伏するような建物が山にあるんじゃないかって、わたしなりに考えたの。
それで、時間があるときは山にはいって、しらみつぶしに見て回った。
塗りつぶされているところは、調査済みのところ。
今のところ疑わしいものは見つかっていなくて、あと探す場所は塗りつぶされていない、ここらへん。
かなり限られてきたから、早く調べたいんだけど・・・
お母さんがいなくなって、家事や妹の世話をしなくちゃで、なかなか、行けなくて。
よかったら見にいって、できたら、わたしに教えてくれる?
あなたにどんな思惑があるかは知らない。
でも、わたしの損にはならないように思うから」
女子たちが「被害妄想にとらわれ狂っている」と評したわりには、さばさばとしたもので、地図を俺の胸に押しつけ、去っていった。
「なんで」「なんで」といちいち問いつめられたり、お互い腹の探りあいをしては、無駄な時間ロスなので、助かったとはいえ、なにか釈然としない。
たとえ、ゲームの都合上、必要不可欠なヒントをくれるキャラ設定だとしても。
ともあれ、土曜日の昼前、最後の休み時間で、今回の物語の大筋と向かうべき場所が判明してほっとする。
今までよりホラー感がなく、外国の拉致関連という現実的な危険と直面しそうなミッション。
まさか対決するのは口裂け女だけでなく、外国人の犯罪集団とも?
同じ命がけでも、ホラーあるあるで「生きている人間のほうが怖い」パターンが多いから、あまり怪奇現象が起こらないとしても、うれしくはない。
ただ、ゲームを詰まないため以外にも、今回は「やり遂げねば」と使命感を抱いたもので。
もし、彼女の話がほんとうだったとして、海辺に一人で歩くのさえ、その土地の住人が注意をするような現状だ。
山奥の外国人誘拐犯の根城に、女の子一人で近づかせるのは、大変よろしくない。
まあ、男とはいえ、高校生の俺だって無力で無謀なのは変わらず。
「屁でもないぜ!まかせな!」と自信満々に胸を叩くことはできない。
そのくせ「篠原さんを守らねば」といつになく勇ましく思うのは、口裂け男を心強い相棒と見なしているからなのか。
猟奇的人食い殺人犯の疑惑はまだ晴れていないが・・・。
まあ、犯罪レベルからいえば、口裂け男のほうが、はるかに凄みがあり、外国人の誘拐犯どもを逆に、ちびらせることができるかもしれないし。
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