五日目・探索パート②

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五日目・探索パート②

思わずといったように足を止め、口を開けて見あげる男と、梯子に乗ったまま、小窓に手をかけて目を見張る俺。 ほんの膠着状態があって「おまえ・・・!」と梯子にむかい走りだしたのに、俺も金縛りがとけてマットを外へ放ろうと。 が、どうせならと男に投げつけ「ぐう!くそお・・・!」ともたついている隙に小窓をくぐる。 ブロック塀の上に乗るも、すぐに跳びおりず、塀をつかんで一旦、ぶら下がり、ゆっくりと足をおろして。 地面を踏みしめ、脱出成功のよろこびを噛みしめる間もなく、この場から早く離脱しなければいけないものを。 一瞬、途方に暮れてしまい。 外に脱出できたとして、どうすればいい? 基本「蛍の光」が流れたあとの探索パートの時間帯は、関係者以外、無人。 警察署にころがりこんでも無意味だし、そもそも人のいる敷地(目的地以外)には見えない壁があって踏みこめない。 「おい!なんたらかんたら!(外国語)」との頭上からの大声に我にかえり「今は、とにかく距離をとらないと!」と走りだす。 わき目もふらず逃げたいところ、どうしても背後が気にり、ふりかえると、ちょうど倉庫の出入り口から、黒ずくめの男たちがわらわらと。 俺を見とめて、指を差し、走る体勢をとろうとしたとき。 なんと、倉庫正面のむかいの道、その壁から口裂け女がひょっこり。 ベストタイミングで真っ向から鉢合わせて、とたんに連中は硬直。 彼女が一歩踏みだしただけで「あああああああ!」と超音波のような叫びを夕空にとどろかせ、蜘蛛の子を散らすように逃走。 一呼吸おいて、口裂け女が世界新記録級の俊足で追いかけていった。 早速、一人捕まったらしく「うわあああああ!ひ○▽■※(外国語)・・・!」とみっともなく喚きちらし、食べられたのか、すこしもせず静かに。 人が口裂け女に襲われるのを、当事者としてでなく(聞いただけだが)目の当たりにしたのは初めて。 客観的にあらためて慄くも、追いかけてくる例の日本人の男は、都市伝説なんて糞くらえとばかり俺にしか目がないよう。 どんな最恐ゲームも、涼しい顔をしてやり遂げる弟のような、ホラーへの耐性が強い野郎か・・・! だとしたら、口裂け女で怯ませる策は通用しない。 よほどキョ―サンシュギとあの国に盲目的に忠誠を誓っているのだろう。 「あーあ逃げられちった☆(テヘペロ)」と易々と諦めてくれなさそう。 俺とあの男と、足の速さは似たり寄ったり。 ポケットにぱんぱんの即効体力回復アイテム(拉致されたとき没収されなかった)チロルチョコがある分、俺に有利だが、あちらの執念深さは相当なものに思える。 逃げても逃げても地の果てまで追撃してくるスーパーストーカーのような。 つまり、ただただ走って振りきろうとしたり、相手の体力がつきるのを待っても得策でないということ。 おまけに生きた人間には、口裂け女のようにべっこう飴を投げるとか、小細工も利かない。 じゃあ、どうせゴーストタウンなのだから(人の居つかない土地は入れるし)建物内に隠れようか。 と考えかけ「いや駄目だ」と即考えなおす。 この訳ありゴーストタウンには、彼ら工作員の拠点の塾があり、そこを中心に同じ国の人ばかりが、あたりで商売をしたり、事務所をかまえたり、住んでいた。 たぶん拉致犯の彼らにとってはホームで、地の利がある。 地図を隅から隅まで目を通し、頭に叩きこんだ俺より熟知している可能性も。 だったら、建物に身を潜めては逆に袋の鼠になる危険が。 「ほかに、あいつの足をに鈍らせるか、心を挫かせる手はないか!」と走りながら考えに考え「そうだ!」と思いついたことには。 交番に行ってみてはどうかと。 いや、もちろん、警察官は不在だし、見えない壁があるからドアに手が届きもしないが、ただ、交番に駆けつける「ふり」をすればいい。 相手は国を裏切っている、そんじゃそこらにはいない大犯罪者。 ただでさえ肩身の狭い立場なのだから「ふつう」は警察関連を避けたがるはず。 それに今は、逆上して俺と部下以外、人がいない異常さに気づいていないだろうし。 無人の交番だろうと、走りこみ「お巡りさん!」と助けを請うふりをすれば、足をとどめると思う。 そう「ふつう」なら。 息が切れて、脇腹が疼くのに「もう一息だから」とチロルチョコを口に放る。 どうにか捕まらないでゴーストタウンをでて、いちばん近い交番へと。 道の角を曲がり、強く踏みこんで、交番に一目散にむかう演技をしつつ。 男の視界に交番がはいるだろうタイミングで、ちらりと見やったところ。 たしかに交番のほうに視線をやったはずが、瞬時に向きなおり、俺の走りが鈍ったのがチャンスとばかり、なんなら息巻いて追走続行。 わずかにも取り乱さなかったのに「え?は?はあ?はああああ!?」とこっちのほうが動転しつつ、なんとか持ちなおし、また走るのに集中。 あれ、なんで、そんな、気のせいか? 俺の芝居を見透かしたように、口角を吊り上げたように見えたのは・・・。 いや、道を曲がるついでに一瞥したなら、堂堂と胸を張って交番前を疾走したに見まちがいでなさそう。 まだ頭の混乱を引きずりながらも「そうか、そういうことか・・・!」と。 一日目に拉致されかけた女子高生が、なんとか逃げだしたのに十年も見つからなかったこと。 二日目の口裂け女もどきが警察に行ったはずが、そのあとなんの進展もなく、アパートの火事の真相についても報道されていないこと。 今回でいえば、篠原さんの母親の失踪の理由が「カケオチ」一辺倒で、ほかの疑惑がほとんど検討されず、長い間、警察が知らんふりしていること。 そして山向こうの海辺で失踪事件が相次いでいるのが「神隠し」扱いされ、現実的な脅威、犯罪として見なされず、放っておかれていること。 俺が生まれるより三十年以上前とはいえ、法治国家の日本で、どうして、こうも無法地帯かのように国際的犯罪が横行しているのか。 交番をまえにし男が不敵に笑ったのを見て悟った。 警察内部に協力者がいるのだ。 あの国の工作関連の事故や事件が起きたとしても、起訴どころか、捜査もさせないよう仕向けられるほど権力を持った。
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