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五日目・探索パート③
警察に協力者がいるから外国人の工作活動が、この地域では野放しになっているのかも。
証拠も糞もない、これまでの状況判断による仮説とはいえ「そんな阿呆な」と一笑に付すような陰謀論だとも思わない。
前世、未来では、悪徳警察署長が実際に、背信行為をしたとして御用となり、大スキャンダルになったものだ。
どうやら違法なお店で不道徳な遊びをしたらしく、その写真と映像が撮られてしまい。
それで脅されて管轄の地域で活動していた詐欺グループを見逃していたらしい。
今も同じようにお偉いさんが弱みをにぎられているのか。
もし、キョ―サンシュギシャの同胞なら望んで積極的にサポートしているわけで、もっと手に負えない。
探索パートでは、どうせ警察に泣きつけないとはいえ、拉致されたあとのことを考えれば絶望してしまう。
たとえ親が失踪届けをだし、涙ながらに被害を訴えたとして、警察も政府も(もしくはマスコミも)すっとぼけて、見て見ぬふりするだろうから。
だって歴史的にも拉致被害者と認められるまで、三十年かかったというし、帰国できたのもたった五人。
四十年以上経った未来でも、問題はくすぶったまま、拉致された人の奪還はままならず、安否もはっきりしていない体たらく。
キョーサンシュギの皮をがぶった独裁国家の外国に強制連行され、自国からも見放されるとは、やりきれないにもほどがあるし、都市伝説より闇が深すぎる案件だ。
「まじ、だれも守ってくれないんだな!」と吐き気がするほどに恐怖がこみあげるも、唇を噛みしめ、雑念を振りはらうように走りつづける。
それにしても、さらに危機感を煽るような男のスーパーストーカーぶりよ。
チロルチョコで体力を補っている俺に、ずっと一定の距離で追尾。
ほんの気をぬくと、とたんに食らいつくように迫ってくるし。
超人的な脚力をしているだけでなく、瞬間的な状況判断も百パー外れなし。
たとえば、男が道を曲がるまえに、家と家の隙間にはいったとして、ほかにも抜け道があるというに、迷わずつづいて突入してくるし。
左か右か、分岐した道にしろ(行き先がばれないようにしても)すこしも足踏みせず、正解の道に突進してくるし。
ミキオに通じる壁を透視できるような超能力者なの!?
おいおい!鬼畜ゲーム制作側、追手がこうも有能すぎると、こっちは詰みじゃない!?
チロルチョコが減っていき、焦りが募って、つい八つ当たりをしつつ、なにげに振りかえったところ。
獰猛な獣のような呼吸音は聞こえるというに、一見、どこにもいないような。
あたりに目を走らせ、ふと、視線を落としたところ。
犬!?いや人面犬か!
ドーベルマンのような大型犬にして、お面をかぶっているように、あの男の顔が貼りついている。
血走った目をぎらぎら、口角を高々と上げて、はっはっと真っ赤な舌を垂れて。
「キモ!」と全身総毛だって、顔を逸らすように、まえを向き「あれ?でも、人面犬の噂はミキオからも学校でも聞いたことがないな」と首をひねる。
じゃあ、どうして古い都市伝説の一つを、一目で見ぬけたかというと、前世、未来で目にしたことがあるから。
○ケモンの妖怪バージョンのようなアニメが流行っていて、弟と視聴してのこと。
主人公と交流のある一匹に人面犬が。
アニメの設定では、リストラされ行き場を失くした中年男性が、心だけでなく体も「負け犬」のようになってしまったと。
口裂け女のように人を襲うことなく、わるさをするといえば、ゴミを漁るくらい。
そのさまが哀愁漂うものだから、人は叱るより「だいじょうぶ?」と声をかけるのを「放っておいてくれ」とぶっきらぼうに返すのが、お決まりのパターン。
いつも、しみったれた辛気くさい顔をし、どうやって話しかけようと「勝手だろ」「うるせえ」「なんだ人間か」と舌打ちしたり、ため息を吐いたり、皮肉っぽく応じるのがアニメのキャラだ。
そのとき「訳の分からない妖怪だ」と気になって調べたら、昔、都市伝説として語られていた内容は、また異なって。
道を時速百メートルで走るらしく、追いぬかれた車は事故を起こすとか。
あやしい生物実験や遺伝子操作の研究によって生みだされたとか。
犬のような格好で拘束されたまま、育てられた女性だとかの逸話もある。
まあ、江戸時代から見世物になっていたというに歴史が長いし、未来の当時でも、画像や映像を加工して人面犬を量産していたほどなので、目立って噂にならずとも、日本人にとっては身近な存在のよう。
にしたって、なんの脈略もなく、急に男が人面犬に変身したよ!?
都市伝説のように時速百キロではなく、見たところ平均的な犬並の足の速さとはいえ、体力的にも心理的にも俺が圧倒的に不利(子供のころ、吠える犬に追いかけられたトラウマがあるし)。
直線での徒競走は負けるに、できるだけ道を曲がって曲がってを繰りかえすも、おそらく人面犬の体力は無尽蔵だから、チロルチョコがつきたらゲームオーバーだ。
捕まったら生き地獄行き決定のうえ、トラウマのある気色わるい犬に追いつめられるプレッシャーたるよ。
もう恥もくそもなく、びっしょりお漏らしをしながら涙を飲んで、打開策をひねりだそうと。
が、どれだけ記憶をさらっても、口裂け女のような対処法はなくて、なんなら「噛まれたら、自分も人面犬になる」なんて余計なネタを思いだし、膝ががくがく。
「拉致られるのも勘弁だけど、人面犬になって一生過ごすのも御免だ!」と涙を溢れさたところで、どん詰まり。
なす術なく、ついに最後のチロルチョコを食べて、スピードを緩めず道を曲がったとき。
壁の角付近に置いてあるゴミをいれるための、おおきな鉄製のボックス。
その蓋がびっくり箱のように勢いよく開いた。
ぎょっとして思わず足を止め、汚物にまみれた白いワンピースを目にした直後、腕を引っぱられて。
つんのめりつつ、反射的に踏ん張ろうとしたものを、そのまえに脇腹をつかまれ、抱えられてボックスへと。
ゴミ袋に埋もれるうちに、Tシャツを引きちぎられ、すこし間があって、そっと蓋が閉められたもので。
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