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育ての親である御子柴勝伍が亡くなった。御子柴陸は葬式の様子を離れた場所から黙って見つめていた。勝伍はロボット開発事業で財を成した人だった。最新のAI技術を駆使し、災害ロボットや家政婦ロボット、介護ロボット、子供向け玩具などを次から次へと開発しては、「世界の御子柴」と呼ばれるまでに成長した。
勝伍が亡くなっても会社が潰れることはない。後継ぎがいる。ただし、それは陸ではない。陸は児童養護施設育ちで勝伍が気まぐれで引き取っただけの子供だった。
勝伍には健二という長男がおり、正式な跡継ぎに決まっていた。陸は今年で二十六歳になった。勝伍は八十五という年齢から、育ての親というより、陸にとって祖父に近い感覚だった。
対する健二は五十一歳。年齢を考えれば後継ぎ問題では何ら問題はなさそうだが、健二の焦りを陸は感じ取っていた。分かりやすいほどに。健二は陸を目の敵にしていた。勝伍は長男の健二だけを甘やかすことはなく、陸と平等に育てた。後継ぎである健二の方を若干厳しく育てているようではあったが、それでも勝伍は陸にも十分な愛情を注いでくれていた。
ただ、それも今日までだ。勝伍が亡くなった今、陸はきっと御子柴家を追い出される。御子柴家に留まることを健二が許さないだろう。陸も反発するつもりはなかった。これからどうしようか、そんなことを考えている間に勝伍の葬式は終わっていた。
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