コグマとアニキ

11/100
前へ
/100ページ
次へ
 そんなこんなで人々の「大人の男がぬいぐるみを抱えて歩いてる」という視線に耐えながらホテルに戻ってきた。コグマはそんな陸の疲れなど知らぬ存ぜぬといった顔でドーナツの箱から離れない。 「お前が離れないと箱が空けられないだろうが」と言ってやっと箱から距離を取った。しかし、箱を開けるとすぐ我先にと顔を突っ込む。 「そんな急がなくても取ったりしねーって。好きなの食えよ」 「ふむふむ。うみゃい。ふぉふぁもぉーふぃふぃふぇ」頬張りすぎて後半は何を言っているのかさっぱりだ。 「つーか。ドーナツ食べるクマって何だよ。クマというかぬいぐるみのくせに」呆れながら陸もドーナツを手にする。ふかふかのイースト生地に生クリームが入ったロングセラー商品だ。 「俺がドーナツを食べるのには理由がある」 「……何だよ。改まって」 「オールドハニーファッション!!」短い前足でドーナツを高々と掲げる。  揚げたドーナツにはちみつ味のシロップをコーティングし、固めたものだった。やはりそこはクマだ。はちみつ味を好むらしい。それよりもドーナツの名前を急に叫びだしたが一体何なのか。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加