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「は……俺にですか?」
「はい。確かに勝伍様から陸様にです」弁護士は木箱の中に興味がないのか、ずいと陸の顔の前に木箱を差し出した。
「……分かりました」御子柴家を出てから開けようとしたが、健二は落ち着かない様子で陸を見ている。
「開けないのか?」
「開けた方がいいの?」二人のやり取りに弁護士は淡々と告げた。どちらでも構いませんよ。もう陸様の物ですから、と。
「開けろよ」健二が言う。内心、健二に見られるのは抵抗があったが、ここで諍いを起こすのも面倒だった陸は蓋を開けることにした。重めの木の蓋を開けると、健二が我先にと顔を突っ込んだ。金になりそうな物なら奪ってやるという気迫に圧倒され、陸は体を後ろに引いた。
箱の中にあったのは、クマのぬいぐるみだった。
健二がぬいぐるみをひょいと箱から取り出す。そのクマのぬいぐるみは犬が伏せをするような形で寝そべっており、顔は怒っているのか、それとも眠っているのか、糸のような目をしていた。顔文字で表すなら【(‐_‐)】だ。お世辞にも可愛い顔つきとは言えない。
「何だ、こりゃ」健二が明らかにがっかりした顔になった。クマのぬいぐるみは新品でもなく、誰かが使っていたのか、ややくたびれている。
「クマのぬいぐるみですね」
「見りゃ分かる」
「お義父さんが陸君に遺した物ってこれだけ?」
「そうみたいだな」
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