0人が本棚に入れています
本棚に追加
健二の興味はすっかり薄れてしまっていた。それならそれでいい。下手に金品が入っていたら、それはそれでややこしいのだから。
「話は終わりですよね。俺はもう行きます」クマのぬいぐるみが入った木箱を左腕で挟んで立ち上がる。
「行くってどこに?」健二の嫁が聞く。
「……さぁ? 勝伍さんが亡くなったんだから、もう俺はこの家と関係ないでしょう」
陸の放った言葉に健二も健二の嫁も何も言わなかった。ここにいればいいと言う筈がないのは分かっている。健二と嫁にとって陸は目の上のたんこぶのような存在だった。いつ勝伍が陸に会社を譲ると言い出すか気が気でなかっただろう。
陸は御子柴家とは関係のない仕事に就いていた。陸自身も御子柴家とは距離を置いていたつもりだった。それでも、健二から見れば陸は十分に脅威となっていただろう。勝伍は陸にも十分な愛情を注いでいたからだ。
ただ、陸は勝伍が亡くなってからもこの家にいるつもりはなかった。会社は健二のものになった。陸にも未練はない。勝伍に感謝はしているが、勝伍が亡くなった今、御子柴家にいる理由がない。
現に健二も嫁も安堵の表情を浮かべている。別に「血が繋がっていなくても自分は勝伍の子供なのだから財産を寄越せ」なんて言うつもりはない。
最初のコメントを投稿しよう!