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「じゃあ、長い間お世話になりました。俺の部屋の家具は好きにしてもらって結構ですから」陸は自分の部屋の荷物を持って御子柴家を辞去した。
当てもなく電車に乗り、何となく目についた駅で適当に降り、気の向くままに歩く。ビジネスホテルにたどり着いたので、ひとまず空き部屋があるか聞く。平日で空きには余裕があったのでチェックインした。
何の思い入れもない街の様子を窓から眺める。ふうとため息を付き、固いベッドに仰向けになった。
「これからどうしようか」誰にともなく呟く。ふと視線を移すと木箱が視界に入った。
「本当に何なんだろう。このクマのぬいぐるみ」勝伍の意図がさっぱり分からなかった。
ただ、勝伍は意味のないことを陸に告げる人ではない。いらないとは言えず、受け取ることにした。箱から出す。愛想のない顔を正面から見る。特に変わった点はない。裏返したり、逆さにしたり、しっぽを掴んで振り回してみても何も変わった点はなかった。
「あ」木箱の底に紙が折りたたんである。御子柴家で開けた時は気付かなかった。その紙を開く。
「え、これって」紙にはこう書いてあった。
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