コグマとアニキ

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「コグマも一緒に行く」 「は? お前を連れてくって。何の罰ゲームだよ」二十六歳の成人男性がクマのぬいぐるみを引き連れて買い物なんて冗談じゃない。是が非でも連れて行くのは避けたかった。 「連れてって! アニキ!」 「無理だっつーの! 大人しく部屋で待っとけ!」  財布を急いで掴むと陸は部屋を出た。ドアを閉めようとしたとき、わずかなすき間からにょきっとコグマが飛び出てきた。何と身軽なのか。さっきもその身軽さで転ぶのを回避できなかったのか。無視して陸はホテルの廊下を走った。  さすがにあの短い脚では陸に追いつけるはずがないだろう。諦めて部屋に戻ることを期待した。しかし、そんなことで諦めるコグマではなかった。短い脚をせかせかと動かし、陸に追いつこうとしている。陸とコグマの距離は縮まることはなかったが、大きく離れるわけでもなかった。  後ろからアニキーと悲痛な声が聞こえてくる。置いてかないでー、アニキに捨てられたら生きていけないわーと、演歌調のセリフに気が抜けたのか、陸の走るスピードが鈍る。コグマはその隙を見逃さなかった。
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