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中学生でもあるまいし、いつまでこんなことをしているのだろうと、前園彩葉は意気地のない自分に不甲斐なさを感じていた。
「今、城田さん覗いてましたよ」
キーボードを打つ手を止めることなく、隣のデスクの川村小姫が言った。
「やだ、もっと早く教えてよー。今日はまだ一度も城田さんの顔見れてなかったのに」
部署を仕切る目障りなパーティションに目をやりながら彩葉が小声で返すと、手を止めた小姫はため息を吐き呆れ顔を見せた。
「彩葉さん……いい加減先に進んでくださいよ。ただ遠くから見てるだけなんて、小学生の初恋じゃないんですから」
「しょ、小学生!?」
どうやら、中学生ではなく小学生レベルらしい。
「そうですよ。近頃は小学生でもスマホ持ってるらしいですし。『誰とでも気軽にSNSで繋がれちゃうんだよー』って、中学生の姪っ子が言ってましたよ」
「へえ……」
「まあ大人はそんな気軽にって訳にはいかないかもですけど、城田さんとは部署が違うっていっても同じフロアだし挨拶ぐらいはするんですから、まずは食事にでも誘ってみたらどうですか?」
「そうだよねえ。どんなお店がいいのかな。城田さんはガッツリ系って感じじゃないよね」
そう言いながらも、今すぐどうこうしようという考えはなく、彩葉はお洒落なイタリアンや高級料亭を思い浮かべながらイメージを膨らませた。少ないながらも男性から食事に誘われたことはあったが、誘う側は一度も経験したことがなかった。
「そんなのどうにでもなりますよ」
そう簡単に口にする小姫は、デートに誘うのも誘われるのも慣れているからだ。
「そうかな」
「そうですよ。『何が食べたい?』って聞かれたら彩葉さんの食べたいもの答えればいいし、『いい店知ってるんだ』って言われれば『そこにしましょう』って言えばいいんです」
「なるほど」
小姫のどうにでもなるという言葉や、何てことないというような考え方が何故だか妙に納得でき、長い間逡巡していた彩葉は遂に決意を固めた。
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