好物

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熱が冷めないうちにと、翌日彩葉は廊下で顔を合わせた城田に早速声を掛けた。 「お疲れ様です」 「あ、お疲れ様」 立ち止まった彩葉につられるように城田も足を止めた。 「あ、あのう……忙しいですか?」 「いや、今から食堂行くとこだけど」 聞き方が悪かったようだ。 「いえ、あの、今日は忙しいですか?」 「ああ、まあ普通に、いつも通りって感じかな」 これもちょっと違ったようだ。 「そう……ですか」 「どうかした?」 彩葉のぎこちない様子に気付いたのか、顔を覗き込むようにして城田が尋ねた。 「あ、いえ、あの……もし良かったら、今日の夜一緒に食事でもと思って」 「えっ、ああ、そういうこと」 城田は驚いた様子で目を見張り、気恥ずかしそうに頭を掻いた。それから唇を噛み考える素振りを見せた後、申し訳なさそうに「ごめん、今日は駄目なんだ」と答えた。 「そうですよね。急にすみません」 「いや……」 何か言いたげな城田をよそに、彩葉は気まずさに耐えきれず、「じゃあ、また」と言って会釈すると、逃げるようにその場を去った。 もっと計画を練ってから実行に移すべきだったと後悔していた。やはり、誘い慣れしている小姫とは違う。スマートな誘い文句が思い付かず、断られた場合の対応策も考えていなかった。 「もう、彩葉さん、何やってるんですか。断られたからって簡単に引き下がってちゃ駄目ですよ!」 小姫が眉間に皺を寄せながら言った。 「だってさ、城田さん忙しいみたいだし」 「たとえ仕事が立て込んでたとしても、一ヶ月も二ヶ月もずっと忙しいことなんてあり得ないんですから」 「まあ、それはそうだけど……」 「『いつなら大丈夫そうですか?』って、まずは約束をとりつけなきゃですよ!」 今なら小姫の言葉に納得できるが、城田を前にして頭が真っ白になった彩葉には思い付かなかったのだ。
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