好物

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それから一週間、城田と顔を合わせることは当然あったのだが、何故だか城田はマスクを着けたり外したりを繰り返していて、誘うに誘えないという状況が続いていた。 そうして、あれこれと考えを巡らせているうちに、ひとつの推測に辿り着いた。 城田の不自然なマスクの着用は、苦手な客の目を欺く為ではなく、彩葉からの誘いを逃れるための策なのではないか、ということだ。それは、体調が悪い相手を誘うのは憚られるという人間の心理に基づいた得策に思えた。 そんなことを考えながら更に様子を窺うこと数日、いよいよ城田の様子がおかしくなってきた。 前から歩いてくる城田と明らかに目が合ったとわかるのに、城田は目を逸らし気付いていないかのように顔を背けて通りすぎるのだ。それも、一度や二度ではなかった。 やはり城田に避けられている。 彩葉はそう確信した。
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