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4.因果
「うわぁっ! 」
叫び声を上げて体を起こすと、心配そうに見つめる蓮之介の顔がすぐそこにあった。
「主碼、おい主碼、大丈夫か、大分魘されていたぞ」
ぼんやりと辺りを見渡すと、どうも小香寺の庫裡の一室のようである。
「あなた……」
小袖袴のまま、主碼は板の間に寝かされて掻巻を掛けられていた。
「紀和殿のお墓の前で倒れていたおまえを、御住職が見つけてこちらに寝かせて下さったのだ。小僧さんが芝神明まで知らせに来てくれたんだぜ……医者の癖に、おまえの体調にも気付けねぇとはな」
主碼は、自分を支える蓮之介の腕を強く握りしめた。
「私は……名を変えます。あなたと兄弟ということにしてください。そうでなくては……私の因果はまだ燻っております。あなたを、あなたを危険な目に……」
どうしよう、そう泣きながら蓮之介の胸に顔を埋める主碼の背中を優しく撫でながら、蓮之介は豪快に笑った。
「んなのは初めっから承知の助だぇ。それが怖くて、おまえと割りない仲などになれるものか」
「蓮之介様……抱いてください。あなたのものだと、私の体中に爪痕を残してください。あなたが欲しくて寝ても覚めてもあなたのことしか考えられぬ程、私を啼かせてください! 」
そう叫ぶなり、主碼は自ら蓮之介の唇に食らいついた。
一糸まとわぬ姿の2人は、脱ぎ捨てられた着物の海の中で、足を絡めたまま向き合うように横たわっていた。
「怖い夢でした……」
「そのお陰で、俺は可愛いお前の啼き声を聞けたがね」
「もう……私は、江戸に戻るべきではなかったのでしょうか」
「いや、おまえはもう十分に苦しんだ、お天道の下を堂々と歩くべきだ。ただ、一人じゃねぇよ。俺がいる、先生も大阪屋も鷹屋もいる。今のお前には、味方がちゃんといる」
「はい……」
今度は蓮之介が、主碼に覆い被さるようにしてその唇を吸ったのだった。
「寝ても覚めても、俺のことしか考えるなよ」
うっとりと頷き、主碼が悩ましい吐息を漏らしたのだった。
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