5.望まぬ願い

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 「……そ、そんな、大丈夫です!!これ以上の迷惑は!!タクシー拾って帰りますので!!」   正直なことを言えば、今すぐにでも、彼の前から姿を消したい。 初対面の男性の前で、こんな醜態を晒して、さらに介抱までしてもらおうなど、この世で最も望んでいない展開だ。  「ほんと、大丈夫なんで!!全然、こんな程度!!!」 ぶんぶんと強く首を振ると、世界が揺れる。 復活しそうな吐き気をなんとか飲み込むと、浅倉さんが、小さく笑った。  「遠慮しないでいいのに。最後までエスコートさせてよ」 「いやいやいや!!初めて会ったばっかりの……見ず知らずの俺が……こんな……恥を晒して……しかも……浅倉さんのお仕事中に」 それはさすがに無理がありますよ兄さん!と突っ込みたくなるほどの優しさを発揮する浅倉さん。  ホストとしての職業病なのか、彼自身の性格なのかは分からない……ただ。 優しくされればされる程、こちらとしては気まずいことを彼は気づいているのだろうか。 彼は顎に手を当て、じっと何かを考えているポーズをとる。 その後、何かを考え付いたらしく、俺に向き直った。  「じゃあ、蒼士くん家行く?」 「えっ」  「そうしよっか。なら、蒼士くんも気を遣わないで済むじゃん。やば、名案じゃね、俺」  「ちょっと、待っ」    「閉店までもう少しあるから、ここで待ってて。後でお迎えに上がりますので」  演技がかった口調で(うやうや)しく頭を下げる浅倉さん。  そんなことをされたら、口が縫われたかのように言葉が出てこない。  「行ってくるね」  綺麗な瞳を瞬かせ、ひらりと身をひるがえす彼の背中を見守ることしかできなかった。  誰もいない部屋に1人ぽつんと残される。  「どうしよう……」  立ち上がって無駄にうろうろと徘徊するも、結局気持ち悪くなってきて、ソファに座るを繰り返す。  そんなことをしていると、3度のノックが響いた。      
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