21人が本棚に入れています
本棚に追加
「……そ、そんな、大丈夫です!!これ以上の迷惑は!!タクシー拾って帰りますので!!」
正直なことを言えば、今すぐにでも、彼の前から姿を消したい。
初対面の男性の前で、こんな醜態を晒して、さらに介抱までしてもらおうなど、この世で最も望んでいない展開だ。
「ほんと、大丈夫なんで!!全然、こんな程度!!!」
ぶんぶんと強く首を振ると、世界が揺れる。
復活しそうな吐き気をなんとか飲み込むと、浅倉さんが、小さく笑った。
「遠慮しないでいいのに。最後までエスコートさせてよ」
「いやいやいや!!初めて会ったばっかりの……見ず知らずの俺が……こんな……恥を晒して……しかも……浅倉さんのお仕事中に」
それはさすがに無理がありますよ兄さん!と突っ込みたくなるほどの優しさを発揮する浅倉さん。
ホストとしての職業病なのか、彼自身の性格なのかは分からない……ただ。
優しくされればされる程、こちらとしては気まずいことを彼は気づいているのだろうか。
彼は顎に手を当て、じっと何かを考えているポーズをとる。
その後、何かを考え付いたらしく、俺に向き直った。
「じゃあ、蒼士くん家行く?」
「えっ」
「そうしよっか。なら、蒼士くんも気を遣わないで済むじゃん。やば、名案じゃね、俺」
「ちょっと、待っ」
「閉店までもう少しあるから、ここで待ってて。後でお迎えに上がりますので」
演技がかった口調で恭しく頭を下げる浅倉さん。
そんなことをされたら、口が縫われたかのように言葉が出てこない。
「行ってくるね」
綺麗な瞳を瞬かせ、ひらりと身をひるがえす彼の背中を見守ることしかできなかった。
誰もいない部屋に1人ぽつんと残される。
「どうしよう……」
立ち上がって無駄にうろうろと徘徊するも、結局気持ち悪くなってきて、ソファに座るを繰り返す。
そんなことをしていると、3度のノックが響いた。
最初のコメントを投稿しよう!