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店内では、子供たちの笑い声が響いている。
いつもどおりの光景に、俺は大きく腕を開きながら歩き出した。
「ゆっくり歩こうねー」
そう声をかけると子供たちはその場で一瞬止まる。
そして「はーい」と間の抜けた返事と共に、壊れたロボットみたく、変な歩き方をしながら、早歩きで去っていく。
子供はとても素直だ。
楽しい時は勝手に身体が動いて、悲しい時は人目も気にせず、泣きわめく。
飾り気のない、単純な思考回路が、愛おしくて、羨ましい。
退勤しているからといって、最後まで気は抜かず、店内を見回す。
出入り口が近づくにつれ、緊張の糸はだんだんと溶けていった。
陽気なBGMを背に出口へと向かうと、お客様対応中の佐々木さんと目が合う。
アルバイトより先に帰ることは稀で、少し気まずい。
「佐々木さん、お先に失礼します。お疲れ様です」
「あ……お疲れ様です」
小さい声で囁けば、彼女も同じようにして頭を下げた。
こういう時、必ずといっていいほど、お客様は俺の方を見る。
若い男が、こういった子供向けの施設で働いているのは物珍しいのか、いつも注目の的だ。
その嫌な視線から逃げるように、速足でお店を出た。
外の空気を吸い込むと、一気に肩の荷が下りた気分になる。
(今日も疲れた……)
俺が働く “ぷわぷわパーク東京“は、子供向けの大型室内公園で、従業員の9割が女性だ。
それによっての不満はないし、居心地の悪さも正直あまりない。
従業員のみんなとはうまくやれていると思うし、よく来るお客様とも交流がある。
けれど、ふとした時に感じる、性別の壁を乗り越えることはできない。
『女性ばっかの職場で、若い男の人が働いてるなんて、珍しいね』
『女の人ばっかで、気使うでしょ』
『女性ばっかで、モテモテじゃん』
そんな言葉を聞く度【差別】の単語が脳によぎる。
胸を張って、この仕事が好きだといえない自分。
男性が、子供が好きだと言いづらい世の中。
女性が多い職場にいるだけで、性の対象として晒されるような違和感。
生まれた時は、みんな子供だったのに。
大人は、どうして、そんな曲がった角度からでしか、世界を覗けないのか。
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