1.ここが始まり

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   店内では、子供たちの笑い声が響いている。  いつもどおりの光景に、俺は大きく腕を開きながら歩き出した。  「ゆっくり歩こうねー」    そう声をかけると子供たちはその場で一瞬止まる。  そして「はーい」と間の抜けた返事と共に、壊れたロボットみたく、変な歩き方をしながら、早歩きで去っていく。  子供はとても素直だ。  楽しい時は勝手に身体が動いて、悲しい時は人目も気にせず、泣きわめく。  飾り気のない、単純な思考回路が、愛おしくて、羨ましい。    退勤しているからといって、最後まで気は抜かず、店内を見回す。  出入り口が近づくにつれ、緊張の糸はだんだんと溶けていった。  陽気なBGMを背に出口へと向かうと、お客様対応中の佐々木さんと目が合う。  アルバイトより先に帰ることは稀で、少し気まずい。      「佐々木さん、お先に失礼します。お疲れ様です」  「あ……お疲れ様です」     小さい声で囁けば、彼女も同じようにして頭を下げた。  こういう時、必ずといっていいほど、お客様は俺の方を見る。  若い男が、こういった子供向けの施設で働いているのは物珍しいのか、いつも注目の的だ。  その嫌な視線から逃げるように、速足でお店を出た。  外の空気を吸い込むと、一気に肩の荷が下りた気分になる。  (今日も疲れた……)  俺が働く “ぷわぷわパーク東京“は、子供向けの大型室内公園で、従業員の9割が女性だ。  それによっての不満はないし、居心地の悪さも正直あまりない。  従業員のみんなとはうまくやれていると思うし、よく来るお客様とも交流がある。  けれど、ふとした時に感じる、性別の壁を乗り越えることはできない。  『女性ばっかの職場で、若い男の人が働いてるなんて、珍しいね』  『女の人ばっかで、気使うでしょ』  『女性ばっかで、モテモテじゃん』  そんな言葉を聞く度【差別】の単語が脳によぎる。    胸を張って、この仕事が好きだといえない自分。  男性が、子供が好きだと言いづらい世の中。  女性が多い職場にいるだけで、性の対象として晒されるような違和感。  生まれた時は、みんな子供だったのに。  大人は、どうして、そんな曲がった角度からでしか、世界を覗けないのか。
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