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ウジェーヌは一周した
「ウジェーヌさん、世界中の珍しいものに興味がおありなんでしょう?でしたら、こういうのも好きなんじゃないですかね」
私の前に現れた、胡散臭い商人。
今度はなんだ、と呆れてしまった。確かに私は大手ファッションブランドの社長であり、稼いだ金を使って世界中の珍しいものを集めているコレクターでもある。子供はいないが妻と二人、様々な遺跡や秘境を巡って旅行をすることも少なくない。だが。
「……悪いが、セールスはお断りだぞ」
車から降りたところで突然声をかけてきた男を、私はしっしと手で追い払う仕草をした。
「最近、うちの会社の業績は知ってるだろう。某感染症の影響もあって売り上げが落ちてて大変なんだって。最近は休みもとれないもんだから、妻と大好きな海外旅行にも行けてないんだ。変なもの買ってる余裕なんかないんだよ」
「まあまあ、そう言わずに」
私が邪見にしても、髭の紳士は一切気を悪くした様子がない。多分、生粋のフランス人ではないのだろう。言葉に若干の英語に近い訛りがあるような気がする。
老紳士はニコニコしながら、鞄の中から何かを取り出した。それは、手のひらサイズの小さな藍色の箱である。少しおおぶりな指輪が入りそうなくらいの箱、と言えばいいだろうか。
「私が今回、ウジェーヌさんにお見せしたいのはこれ。この特殊なゴムなのです」
「ゴム?」
「はい。……これは、アメリカで発見されたものなんですがね。なんでも、未確認飛行物体の墜落現場から見つかったものなのですよ。つまり、異星人の落とし物、というわけなのです」
「はあ……」
胡散臭さが増した。私は眉をひそめる。
それが本当なら、NASAがだまって見過ごすはずがない。こんな一介の商人に、どうしてそんなものが回収できるというのだろう。
確かに、異星人というのは興味があるしロマンもある。そのようなものが持っていた品、非常にレアで高値がつきそうなのも間違いないが。
「お金に困っている今のウジェーヌさんだからこそ、必要なものだと思うんですがね」
彼はぱかり、と箱を開けた。
中にはくぼみに嵌った、丸いスライム状の物体が鎮座している。色はほのかなクリーム色をしていて、なんとなく甘いような香りがした。
「お題は格安で構いません。これを、NASAにいる私の友人から回収する時の手間賃を頂ければそれでいいのです。私の目的はお金ではなく、これが齎す結果でございますからね」
「結果?というと?」
「私には、コレの声が聞こえるのです。信じても信じなくても構いませんが」
ずい、と箱を押し付けて彼は続けた。
「これはね、長くのばせばのばすほど、触れた人間に富を与えてくれるものなんです。異星人が持つ、お宝の一つであるようなのですよ。ぜひ、貴方にはこれを使って、事業を成功させていただきたい!」
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