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その日から数日間バタバタが続いたため、次にゴムに触れたのは一週間後のことだった。私はニナと、それから他の事務員たちにも協力してもらい、ゴムをのばす作業をしたのである。さすがに、両手を広げた長さより長くするためには、複数人の協力が必須だったからだ。
「お、おおおおおおおおおおお!」
「すごい、のびますねこれ!しかも全然力いりませんわ!」
「わ、なんかかわいい……!」
私が廊下の端に立ち、持っているゴムをどんどんニナが引き伸ばしていく。廊下を人払いしれくれた事務員たちが、少したわんだゴムの真ん中あたりを支えてくれるといった具合だ。
むいいいいいいいいいいいいいいいいいん、と簡単にのびていくゴム。廊下に、ほのかに甘い香りが漂う。
あっという間にゴムは廊下の端から端の長さに到達した。こうなってくると、保管方法も考えないといけない。のばしたゴムを縮めることはできないが、折りたたむことはできそうだ。特注の箱を注文することにしようかと思う。
百メートル近く伸ばしたところでゴムを畳んでいると、営業部長が大慌てで廊下に飛び出してきた。そして私を見るやいなや、半泣きの顔で言ったのである。
「しゃ、社長!朗報です朗報!な、なんと……オダンデパートさんが、うちと専属契約してくださると!」
「な、なんだと!?」
オダンデパートは、フランス国内でも最大手のデパートの一つだ。超大手取引先の確保に、その場にいた従業員全員のテンションが上がったのは言うまでもない。
同時に、このすぐあと、ゴムに触れた社員たちに次々と“いいこと”が起きた。富というのは単純にお金に関するものだけではないらしく、妻に赤ちゃんができたと喜んでいる者、売却中だった自宅マンションが超高値で売れたという者、息子が大学の推薦を勝ち取った者、フォトコンテストでの入賞が決まった者などなど様々である。
私の妻も、一週間のハワイ旅行が当選したと連絡してきた。ここまでくるともう、私も含め誰もあのゴムの力を疑うことなどない。あれは本物だ。本当に、我々に富を齎してくれるものなのだ、と。
――ま、まさかこれは本当に……宇宙人の持ち物ってやつ、なのか?
商人はこっそりNASAの友人から譲ってもらったみたいなことを言っていたし、流石に確認を取るわけにはいかなかった。
とにかく、このゴムをもっともっと伸ばしてみなければという欲求にかられたのである。自分だけではない。社員全員に触らせれば、うちの会社のみんなを幸せにすることができるはずだと。
「皆、協力してくれ!」
車を使い、国の公的機関にも協力を依頼し、ゴムを十キロほどの長さまで伸ばしたところで。
私はついに正式に、社内にプロジェクトを立ち上げたのだった。
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