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「先日、トゥーロンとマルセイユに新たにうちの支店を作ることが決定した。その祝いもかねて……正式にこのゴムについてプロジェクトを発足しようと思う。名付けて、“地球一周大作戦”だ!」
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
この頃になるともう、社員たちもみんなゴムの効力を疑っていなかったからだろう。私のネーミングセンス皆無な計画を誰も笑わないで聞いてくれた。
全従業員の協力、さらに国の政府の協力まで取りつければもう怖いものはない。
ゴムを、地球一周させるというとんでもない計画。当初は渋る者もいなかったが、その者達も実際にゴムに触って恩恵を受ければ誰も文句は言わなくなった。そう、これは誰の事も不幸にしない計画なのだ。
ゴムに触って得られる“富”に、人を傷つけるようなものはまず含まれなかったからである。戦争に勝利するとか、嫌いな奴が死ぬなんてことはない。純粋に、誰か賞で認められるとか、宝くじが当たるとか、事業が成功するとか。ならばみんな、計画に参加したがるのが常だろう。計画に協力しさえすれば、ゴムに触って富を得ることができるのだから。
未知の物質でできたゴムは、非常に丈夫だった。
むいーんと人の力で簡単に伸ばすことができるのに、マグマの中に落ちても溶けることはなく南極レベルの寒さでも凍ることはなく、刃物で切断することは不可能だった。
海を越え、国境を越え、ゴムはどんどんのびていく。
最終的には、赤道付近に帯を巻くような形で、ゴムは地球一周を成し遂げたのだった。
「ブラボー!これで、完成だ!!」
「やりましたね社長!」
「ああ!」
灼熱の国で、私は皆と握手を交わしながら――のびたゴムの両端を結んだのである。そう。
私は、気づいていなかった。否、誰も気づいていなかったのだ。
ただ無制限に富を生み出すだけの代物などあるはずがない。うまい話には必ず罠がある。異星人の落とし物だからという理由だけで、そんな単純なことを見落としていたのである。
「え」
私がゴムの端と端を結んだ途端、ゴムは突然、凄まじい力で地面に食い込んだのだ。否、突然縮み始めたのである――輪の形状のまま。
大地が揺れ、地球が悲鳴を上げた。何千万℃の熱にさえ耐えるゴムがどんどん地面に食い込んでいき、地球をゆっくりと二つに引き裂き始めたのである。
「あ、あああ……」
大地の断末魔。
地中からマグマが噴き出すのを見ながら、私は思ったのだった。
もしやあのゴムは、最初からこれが目的だったのではないか、と。ゴムを世界一周させ、地球を真っ二つに割って破壊し、住んでいる人々を皆殺しにするために誰かが作った兵器だったのではないかと。そのために、富につられた私を利用したのではないかと。
時既に遅し。
降り注ぐマグマに焼かれながら私は、遠くであの商人の高笑いを聞いた気がしたのだ。
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