12.結婚のご挨拶

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病室にはもう祖母もいて、私たちを見るなり「待っていましたよ」とにこやかに微笑む。対して、祖父はなんだか難しい顔をしていて、「高級な手土産は持ってきたんだろうな」と穂高さんを()めつけた。 穂高さんは優しい微笑みを浮かべつつも、真剣に祖父と向き合う。 「莉子さんと結婚しました。お許しいただきありがとうございます」 「わかってるよな、穂高。莉子が泣くようなことがあれば返してもらうからな」 「おじいちゃん、そんな言い方しなくても。穂高さんは私を助けてくれてソレイユのことも考えてくれて、本当に親身になってくれたんだから」 「莉子は素直で騙されやすいから、気をつけないといかん」 「うっ。それは……そう……」 痛いところを突かれて私は口ごもる。本当に、雄一にも桃香ちゃんにも騙されて、あげくソレイユの土地まで狙われていたのだから目も当てられない。穂高さんがいなかったらどうなっていたことか……。 「おじいちゃんごめんなさい。ソレイユを休業することになってしまって……千景さんにも迷惑をかけちゃった」 「前にも言ったが、ソレイユはもう莉子のものだ。どうしようが構わんよ。ちーちゃんもわかってて働いてくれてたから、大丈夫だ。それよりも、莉子が幸せであることが、わしらの幸せなんだ。そこだけは間違えないでくれ」 「おじいちゃん……。婚姻届の証人欄、書いてくれてありがとう。穂高さんも、私と結婚してくださってありがとうございます」 「こちらこそ、俺と結婚してくれてありがとう」 「莉子、穂高はヘタレだからな、気をつけろよ」 「ヘタレ?」 「五年も莉子に片想いしていたんだからなぁ」 驚いて穂高さんを見る。昨晩、ずっと好きだったと言われたけれど、それが五年も前からだとは思わない。私と目が合った穂高さんは困ったように眉を下げて笑う。 「……できればヘタレではなく一途だと言ってもらいたいですね」 ほんのり耳が赤くなっているのは、照れていると思ってもいいのかしら? 「はいはい、ごちそうさま。お父さんもあんまり意地悪するんじゃありませんよ。莉子ちゃんが取られるのが気に食わないのよ」 「ふん、余計なこと言わんでいい。ここが病院じゃなければちゃぶ台返ししてるところだ」 祖父は渡した手土産の包みを乱暴に開ける。「ふん、塚本屋か。穂高もよくわかってるじゃないか」と満足そうに呟いた。 ぶっきらぼうな祖父に苦笑いしていると、「お父さん、塚本屋のわらびもちが大好きなのよ」と祖母がこっそり教えてくれ、私は穂高さんと顔を見合わせてまたふふっと笑った。
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