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「すごい歓迎ぶりだろ。父も母も、莉子が来るのを心待ちにしていたからね」
「ありがたいんですけど、恐縮するというか……」
お父様はよくソレイユに来てくださっているから知っているけれど、お母様には今日初めてお会いするのに。ちらりとお母様を見ると、ニッコリと微笑まれるので、私は慌てて挨拶をした。
「あの、佐倉莉子と申します。本日はお時間を割いていただきありがとうございます。これ、お口に合うかわかりませんけど、よかったら召し上がってください」
「まあ、ご丁寧にありがとう。さあ、座って。一緒にいただきましょう」
促されてソファへ座る。
私の隣には穂高さん。大丈夫だと言わんばかりにそっと手が添えられた。
「先日話した通り、莉子さんと結婚しました。莉子さんのお祖父さんである佐倉さんにも、先程改めてご挨拶をしてきました」
穂高さんが伝えると、お父様は大きく頷き、「そうか。大変だったね、莉子ちゃん」と私を気遣ってくださった。何があったのか、なぜ穂高さんと結婚するのか、ご両親はすべてわかっているようだ。
「いえ、あの。この度は穂高さんとの結婚をお許しくださりありがとうございます。本来ならご挨拶が先なのですが、こうして後になってしまったこと、本当に申し訳なく思っています」
穂高さんは私を助けるために“結婚”という提案をしてくれた。結果的にお互い想いが通じあったわけだから問題なさそうに見えるけれど、常識的に考えてまずありえないことだ。どんなに言い訳したって始まりはそこなのだから、ご両親にどんなお叱りを受けようが聞くつもりでいるし、巻き込んでしまったことを謝りたい。
お母様がカチャリと静かにカップを置く。真っすぐとした瞳が私を見据え、艷やかな唇がゆっくりと動く。
「そうね。ひとつだけ確認しておきたいのだけど……」
「はい」
「結婚相手が穂高でよかった?」
「え?」
「穂高が無理やり結婚させたなら申し訳ないと思って。事情はだいたい聞いているけれど」
頬に手を当てて、こてんと首を傾げるお母様に、私は慌てて首を横に振った。
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