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「少なくとも彼らは俺を鬼だとか冷徹だとか思ってるみたいだよ。ちょっとお灸を据えすぎたかな?」
「何をしたんですか?」
「ん? それは言えないけど、会うたびに睨んでくるからよっぽど悔しいんだろうね」
「大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「穂高さんが恨まれたりしませんか?」
「そういうこともないとは言い切れないけど、俺は莉子を守れてる優越感に浸ってる」
とんでもなく自信満々に微笑む穂高さんはちょっぴり意地悪な顔をして、でもそんなところも頼もしくて胸がきゅんとなった。同時に心配でもあるから、穂高さんの袖をぎゅうっと握る。
「絶対に無茶しないでくださいね」
「莉子に心配はかけないよ」
大丈夫だよと優しく撫でてくれる。
その優しさに甘えている。いつから私はこんな風に甘えることができるようになったんだろう。
穂高さんの隣りにいると、なんでも自分でやらなくちゃとか、強くいなくちゃなんて思っていた気持ちが薄れて、私はだんだんと弱くなっている気がする。でもそれは、悪い意味じゃなくて、きっといいこと。一人で頑張るんじゃなくて、弱い部分はお互いに補えばいいんだよねって、そういうことなんだろうな。
ぎゅうっと、穂高さんに抱きつくと、ふんわりと抱きしめ返してくれる。なんて素敵な存在なんだろう。
「今日はずいぶんと甘えただね、莉子?」
「そういう日も、あっていいですよね?」
「俺は毎日でも構わないよ」
「毎日ぎゅってしてくれるんですか?」
「それだけでいいの?」
「……キスも?」
控えめにおずおずと聞いてみると、穂高さんの大きな手が私の頬を包み込む。「お望みならいくらでも」という甘い囁きと共にくっと顎を上げられて、重ねられる唇。ゆっくり離れていく唇が、緩く口角を上げる。
「俺はそれ以上も求めています」
穂高さんの瞳が熱を孕む。そんな目で見つめられたら、嫌だなんて言えない。ううん、拒む気なんて最初から持ち合わせていない。心臓がドキドキして、私もほしくて堪らなくなってしまう。
だけど――
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