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「そういうときだけ、丁寧な口調、ずるいです」
「どうして?」
「だって、だめって言えない……」
「だめなの?」
「……いいに決まってます」
これ以上私をときめかせて、どうしようっていうの。意地悪な甘さが脳内まで蕩けさせるみたい。このまま甘やかな波にのまれそうになる。それはそれでいいんだけど……。
私は顔を上げる。視線が交われば穂高さんは目尻を優しく下げてくれる。それだけで私の気持ちはすっと楽になる。彼は私の話をちゃんと聞いてくれて、頭ごなしに否定したりしない。だから私も思ったことを気兼ねなく言葉にできるようになった。
「今の場所はどちらにせよ閉めることになるので、その後のことはもう少し時間をかけて考えたいです。それと、ソレイユを閉める前に、ひとつやりたいことがあります――」
ここ最近考えていた想い。私は何がしたいのか。どうしていきたいのか。その考えを伝えると、穂高さんは大きく頷いてくれた。
「莉子らしい考え方だと思う」
「じゃあ……」
「俺は特に反対する理由もないし、莉子が後悔のないようにしたらいいよ」
肯定してくれることのありがたさも身に沁みて感じている。また一歩前に進めた気分。やる気に満ちてくる。
「私、頑張りますね」
気合を入れてぐっとこぶしを握る。そのこぶしは穂高さんの大きな手に包まれた。
「応援してる」
「はいっ!」
元気よく返事をしたら、柔らかい微笑みとともに甘やかなキスが降ってきた。応援してくれる人がいるって、なんて心強いのだろう。
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