14.まどろみ

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「そういうときだけ、丁寧な口調、ずるいです」 「どうして?」 「だって、だめって言えない……」 「だめなの?」 「……いいに決まってます」 これ以上私をときめかせて、どうしようっていうの。意地悪な甘さが脳内まで蕩けさせるみたい。このまま甘やかな波にのまれそうになる。それはそれでいいんだけど……。 私は顔を上げる。視線が交われば穂高さんは目尻を優しく下げてくれる。それだけで私の気持ちはすっと楽になる。彼は私の話をちゃんと聞いてくれて、頭ごなしに否定したりしない。だから私も思ったことを気兼ねなく言葉にできるようになった。 「今の場所はどちらにせよ閉めることになるので、その後のことはもう少し時間をかけて考えたいです。それと、ソレイユを閉める前に、ひとつやりたいことがあります――」 ここ最近考えていた想い。私は何がしたいのか。どうしていきたいのか。その考えを伝えると、穂高さんは大きく頷いてくれた。 「莉子らしい考え方だと思う」 「じゃあ……」 「俺は特に反対する理由もないし、莉子が後悔のないようにしたらいいよ」 肯定してくれることのありがたさも身に沁みて感じている。また一歩前に進めた気分。やる気に満ちてくる。 「私、頑張りますね」 気合を入れてぐっとこぶしを握る。そのこぶしは穂高さんの大きな手に包まれた。 「応援してる」 「はいっ!」 元気よく返事をしたら、柔らかい微笑みとともに甘やかなキスが降ってきた。応援してくれる人がいるって、なんて心強いのだろう。
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