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ランチタイムになり、急に忙しくなった。ホールは千景さんと桃香ちゃんにお任せして、私は雄一とキッチンに立つ。
いつもは忙しいながらにも声を掛け合いながら、二人で手際よく注文をこなしていた。だけどあの日から、私たちは必要最低限の言葉しか話さなくなった。
ケンカが続いているといえばそうだけど、でも別に険悪な雰囲気かというと、そうでもない。お互いにどこか刺々しい心のモヤモヤを抱えて、消化しきれずにいた。
「桃香ちゃん、休憩入ってね」
「はーい。わ、美味しそう」
桃香ちゃんは賄いをトレイに載せながら、目をキラキラさせた。そんな桃香ちゃんに雄一が近づき、「そうだろう?」なんて笑顔を向ける。
その光景を見ていられなくて、すっとキッチンを出た。
休憩に入る桃香ちゃんが、私の横を通り過ぎるときに「お二人何かありました?」と可愛い笑顔で聞いてきたけれど、それすらも胸が苦しくなって辛い。
「ううん、なにもないよ」
精一杯の笑顔で答えて、逃げるようにホールの片付けに入った。すでに千景さんが大部分を片付けてくれていて、あっという間に綺麗になってしまう。手際の良い千景さんに、私の手伝いはいらなかったかもしれない。
とてもありがたくて良い事のはずなのに、ずいぶんと自分が惨めに思えた。
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