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ふう、と深呼吸ひとつ。
「お待たせしました。日替わりランチです」
穂高さんのテーブルへ持っていくと、文庫本を読んでいた穂高さんが顔を上げる。すっと通った鼻筋に、薄い唇。眼鏡の奥の瞳はダークブラウンで、私を見るなり柔らかく目尻を下げた。
男性を綺麗だと思うのはおかしいだろうか。
穂高さんの柔らかな雰囲気に飲み込まれそうになる。
「莉子さん、今日何かありましたか?」
「え?」
「いえ、ちょっと元気がなさそうだなと思って」
「……」
私は両頬を押さえる。私の汚れた心がまさか顔に出ていたとは思いもよらなかった。これじゃだめだと自分を戒める。
「すみません、顔に出ちゃってましたか。店員失格ですよね」
「いえ、そういう意味で言ったわけではなく……。あのこと、ですか?」
穂高さんは声を潜め、視線を奥のキッチンへ向けた。
穂高さんの席から雄一と桃香ちゃんは見えない。けれど、そのことを言っているのだということはわかる。私が先日穂高さんに相談した件だ。
コクリと頷くと、穂高さんの視線が鋭くなった。
「もし何かあったら連絡してください。絶対に一人で悩まないように。僕は莉子さんの味方でいますから」
「ありがとう……ございます……」
心強い言葉に、胸が熱くなり鼻の奥がツンとした。
一人じゃないんだと思わせてくれる穂高さんの言葉が、たとえ社交辞令だったとしてもとても嬉しい。それだけで、頑張ろうって思えてくる。いつも私を励ましてくれる穂高さんには感謝しかない。彼の優しさに救われ、元気づけられ、心がふわっと軽くなった気がした。
穂高さんは眼鏡をくっと上げると、また元の柔らかな瞳に戻った。
「今日のランチもとても美味しそうですね。いただきます」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
ニッコリ笑みを返すと、穂高さんもふと微笑む。
「莉子さん、笑っててくださいね。あなたの笑顔はとても綺麗です」
「あ、ありがとうございます」
思わぬ言葉にドキリと心臓が揺れた。
かろうじてお礼だけ伝えて、キッチンへ戻った。
心臓が壊れそうなくらいにドキドキして、しばらく落ち着かなかった。
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