3.裏切り

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衣擦れの音がする。 良からぬことを想像して、身が竦んだ。 「ねえ、結婚の話進んだ?」 「まあ、ぼちぼちかな」 「雄一も悪い男だよね。結婚してソレイユの土地を売ったら離婚するなんてさ。そうそう考えつかないよ」 「ん、まあ、反対されてその話は頓挫してるけどな」 「ふーん、莉子さんって意外と頭固いんだ」 「昔から頑固なんだ、あいつ」 バカにしたような笑い声が響く。聞くに堪えない二人の会話は、ぐさりぐさりと私の胸を抉っていく。 動けない私は意気地なしだ。何やってるんだ、私が雄一の彼女だって、出ていくこともできるはず。でも、怖くて足が動かない。 二人のことはずっと疑っていた。ソレイユでも桃香ちゃんと仲良くしてた。予想が確信に変わる。これは現実だ。証拠を押さえたい。 「ねえ、早く莉子さんと結婚してよ。それでソレイユを売って、桃香とカフェを経営しましょうよ。だって桃香の方が断然いい女でしょう? 体の相性だって抜群じゃない」 「ああ、桃香ほどいい女はいないよ。あいつのじーさんも体調悪いみたいだし、もうすぐ死ぬかもな」 「ふふっ楽しみに待ってるから」 衣擦れの音が一層大きくなった。雄一が「桃香」と甘く名前を呼ぶ。艶めかしいリップ音が聞こえる。 気持ち悪い。 吐きそうだ。 だけど――私は寝室に乗り込もうと歩を進める。 「ねえ、莉子さんともエッチしてるの?」 そんな声に再び足が止まった。 「あいつ? 最近はしてないな。まあしたところで、つまんないけど」 「つまんないんだ?」 「言わなきゃやらねータイプ。上手くもないしな」 「へー。莉子さんって下手なんだ」 「そうそう。その点、桃香は最高の女だよ」 「ふふっ、私たち体の相性が良いよね」 二人が何を言っているのか全く分からなかった。 理解したくないと脳が拒絶する。 ぐらりと揺れる体をなんとか動かして、私はそのまま逃げるように家を出た。 ここは私のアパートのはず。 どうして桃香ちゃんがいるの? どうして逃げなきゃいけないの?
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