暴走を始めた自我(エゴ)

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 私の父親は宝石や貴金属を扱う商人だった。ある日、裏の仕事をしている集団から父親は一人の男を家に連れてきた。色狂いで街でも噂であった王への〝献上品〟とすべく、まだ少女だった自分にさまざまな〝教育〟を施すためであった。私は泣き叫んで抵抗したが、その男は〝仕方がないことだ〟と言って自分の仕事だけをするのだった。  その後、私は無事に王の第三夫人として後宮に入った。王は、噂どおりの愚かな男だった。私に〝教育〟を施した男は、その後も父親と王宮をつなぐため、私の所へと定期的に訪れて〝自分の仕事〟をしていた。後宮には愚かな王にふさわしい女たちが次々と送られてきたが、正室の死を皮切りに、不審な死や行方不明となる側室とその子供たちが現れた。  〝教育〟がものをいい、私は決して隙を見せなかった。ーーそういうことであるならばと、自分の仕事をこなす男が私の元を訪れた時に、第二夫人の〝処理〟を依頼した。  後宮とは、よくよく馬鹿の集まる退屈な場所であった。妃たちは私の父親から宝石を買って身を飾り、王の訪問を待つ傍らで、くだらない情事に身を任せている。その片手間に私や私の子を狙う馬鹿どもを、容赦なく私は〝消した〟。これが〝闘争〟であることを、彼女たちはまるで理解できていない。この戦いの勝者となるために頼りとすべきは、宝石などではなく、自らの頭脳と身体である。  すでに私のもとには、王政を掌握する智謀の臣や王軍を率いる屈強な将、ほかの側室の子である貧弱な男までもが、熱い眼差しで近寄ってくるようになっていた。正直、うざったいだけだったが、いい暇つぶしにはなったし、彼らは私の言うことは何でも聞いた。欲ボケの父親もやがて不必要となり、その財産もすべて私のものとした。男もみんな馬鹿だと思った。  私は我が子を王位に立て、自分が国を動かすことを望むようになっていた。だか残念ながら、子どもたちは成長して私の手を離れた少しの隙を狙われて、皆さらわれて姿を消した。私は考えた……自分自身が頂点に立てばよいのではないか、と。実際、政も軍のトップも、私の息がかかっているのだ。  王をなきものにする。ーーいまだ私のもとに通い続け、自分の仕事をこなし続ける男にそれを命じた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  私は今、わずかに息のあるまま埋められようとしている。私が王の殺害を命じた男が、部下たちに指示をしているのがわかった。  「お前の判断なのか」  「いや、自分は自分の仕事をするだけだ」  命じたのは、王が最近迎えた若い側室だという。ーーすでに老いて子もなせなくなっているだろうに、女だけは手放さない王の心をとらえたその若い妃は、馬鹿ばかりの後宮の女の中でも、これまでとは毛色の違ったひときわ馬鹿だと思い、私は捨て置いた。彼女に支えられて王宮の庭を散歩する王の老いを心の中で嘲笑し、自分が王位を手にしようと決心したきっかけとなった女であった。  それなのに……なぜ……本人には何の得にもなりそうにない、馬鹿な女の命を実行し、王位を得ようという私の思いどおりにならない男がいた。少女の頃に泣き叫んで以来、すでに枯れたと思い込んでいた涙が頬を伝った。      
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