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「そういえば久美、もうすぐ産休終わるのよね? 大丈夫なの? 保育園は決まったって言ってたけど」  母が心配そうに訊くのにも、希望的観測で答えるしかない。  美咲の保育園入園が叶ったのが何よりの幸運だと受け止めて、前向きに進むしかないのだ。 「育休ね。大丈夫、かどうかはやってみないとわかんないわ。でも、職場の子持ちの先輩みんな通って来た道だから。私も頑張るしかないし、(よう)ちゃんも普段からこの子の世話はしてくれてるのよ。家事も、産休入るまではずっと分担してたから」  今回の帰省も、育児休業が終わって職場復帰する前に一度しておきたかったのだ。  美咲をゆっくり両親に会わせて、一緒に過ごさせたかった。これからは年末年始に顔を出せるかどうかになるだろうから。  両親もそうたびたび久美の自宅を訪れることはできない。夫にも気を遣うだろうし、何より飛行機を利用する距離なのだ。  会話を続けながらも膝に乗せた美咲に何かと声を掛けている母を微笑ましく思いつつ、久美は久しぶりの実家のリビングに落ち着いて部屋を見回した。  相変わらず綺麗に片付いている。  白い壁には、夫の陽平(ようへい)が撮って久美がデータで送った美咲の写真が、引き伸ばされフレームに入れて何枚も飾られていた。  母はこういうことをするタイプではなかったのに。  昔から綺麗好きで、だからこそ埃が溜まるからと飾り物全般を嫌がっていたものだ。 「……凄いわね、美咲ばっかり」  久美の呟きに、母は可笑しそうに笑う。 「当たり前じゃない。孫ってこんなに可愛いもんなのねぇ。久美、これからも美咲ちゃんの写真送ってよ。データ? って便利よね。いっぱい撮った中から好きなの選べるし」  すっかり『いいお祖母ちゃん』が板についた母に、改めて自分は親になったのだ、と感じる。
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