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混乱している娘の様子を見てか、母は言い聞かせるような口調で話し始めた。
「ねぇ、久美。確かにあなたのためなのは間違いないけど、お母さんがやりたくてやってたの。お父さんの我が儘で『庭が広くて隣と離れてる家』選んで、久美には随分寂しい思いさせたと思ってるのよ。送り迎えくらい当然でしょ。……それくらいじゃ全然足りないけど」
とうとう舟を漕ぎ始めた美咲を隣に座る久美に託して、母が立ち上がった。
「娘が危険な目に合うかもしれないって気にしながら、家でのんびりなんてできなかったわ。だからあれはお母さんの安心のためでもあったのよ」
話を続けながらも、母はてきぱきとソファの横に畳んで置いてあったマットを広げて敷いている。
美咲のお昼寝用に用意してくれたものらしい。
「はい、美咲ちゃん寝かせてあげて。……久美、子どものための苦労は単なる苦労じゃないの。あなたにもわかるわ、すぐに」
わかる、のだろうか。本当にそんな日が来る?
まだまだ母としては新米で余裕などまったくない久美には、先のことは見当もつかない。
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