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帰省
あの街を出て、三年の年月が流れた。
皆、元気にしてるのかな……
海くんはどうしてるんだろう?
額の汗を手のひらで拭うと、
玲子はまた走り出す……。
「横石……横石」
彼女の横に、走り寄って来た同僚の
東栄太に気づいた玲子は足を止めた。
「何? 私に何か用?」
「も~、またそんな素っ気ない」
「用もないなら話しかけないでよ」
「も~、流石、クールビューティ 横石玲子」
「は? 喧嘩売ってんの?」
玲子が東の胸倉を掴んだ。
「冗談だってば。上司の如月さんが呼んでるぜ」
「それなら、そうと早く言ってよね」
胸倉から手を離した玲子は、そのまま建物の
中に入って行った。
コンコンコン……ドアをノックする音と共に
玲子が部屋の中に入室した。
「お呼びでしょうか?」
部屋の奥の席に座っていた玲子の上司、
如月がゆっくりと立ち上がった。
「横石くん、君、有給を消化できてない
ようだね。
総務課長から連絡を受けた。
いくら、多忙極まるからといって休まないのは
どうだろう……」
「申し訳ありません……」
「わかればいい。わかれば……
で、さっそくだが、次の仕事開始まで
まだ時間があるだろ?
どうだ、しばらく実家に帰ってゆっくりしては
どうだろう? 次の仕事が始まればしばらくは
休みが取れなくなるだろうからな」
如月が優しく微笑んだ。
「わかりました。では、お言葉に甘えて」
そう言って玲子は如月に一礼すると部屋から
出て行った。
部屋を出て、廊下を歩く玲子のもとに
東がやって来た。
「話って何だったの?」
「休み……有給消化しろって」
「あ、そういうことね。
おまえ働き過ぎだからな」
東の言葉に立ち止まった玲子が、
「働き過ぎ? 次から次へと仕事を回されて、
休みなんかまともに取れないのに……
総務から言われて慌てたんだよ」
「まぁ~、君は貴重な戦力だし、優秀だから
自然と仕事が集中しちゃうんだろうね~。
で、どうするの?」
「実家に帰る……帰省する。
しばらく帰ってないし」
「そうか……で、いつぶりなの? 帰省するの」
「三年かな……」
「三年? おまえそれって入社してから一度も
帰省してないのかよ……
それじゃ、有給も貯まるわな」
「だって、仕方ないでしょ。
研修期間が終了したらすぐに実務に
入ったんだから……」
「だよな~、でもご両親心配してないのかよ」
「帰省できてないだけで、時々は両親が
会いに来てくれてたから……
でも友達とかには連絡取れなかったな」
「まぁ~、次の仕事までゆっくりしてきなよ」
「ありがとう……じゃあ」
そう言うと、玲子は建物の玄関の方へ
歩いて行った。
その日の夜、玲子は家族へ三年ぶりに帰省する
連絡を入れた。
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