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三年ぶりの……
「じゃあな……」
大樹と別れた海が自宅前に近づくと、
隣の家のガレージに見慣れない車が停まっていた。
見慣れない車を一瞬だけ見つめた海だったが、
特に気にもとめず、自分の家の玄関のドアを
開けた。
「ん?」
玄関には綺麗に並べられた女性ものの靴に
視線がとまった海が立ち止まる。
「お客さんか……」
黒色のビジネス用のヒールを見つめると、
肩からリュックを外しながら、リビングのドアを
開けた。
「ただいま……」
海の声にリビングのソファーに座っていた
海の母親が立ち上がると、
「あ、海、おかえり。早かったわね。
今、丁度あなたの噂をしてたのよ」
「噂?」
「そう、玲ちゃんと……」
母親がそう言うと後ろをくるっと振り向いた。
母親の後ろに座る一人の女性に彼は、
驚くと同時に言葉を失い、直立不動になった……。
そして一言……
「玲……ちゃ……玲子……さん」
と呟いた。
「ちょっと~、海、どうしたの。忘れたの?
お隣の玲ちゃんじゃない……
あなたがいつも、くっついてた……
それに何? 玲子さんって、改まって」
母親の言葉にハッとした海は、
「は~、うるせえよ。
わかってるよ、そんなこと」
と慌てて言葉を返した。
「海……くん、久しぶり。元気だった?」
ソファーから立ち上がった彼女が微笑んだ。
「え、あ、ああ。元気だったよ……」
「そう……か。ごめんね、長い間連絡しなくて」
彼女がそう言いながら海の前に歩み寄ると、
海を見上げながら、
「いつの間にか、大きくなっちゃって……」
と呟いた。
「だって俺、もう高三だよ。
そりゃあ背も伸びるよ」
「そうだね」
玲子との三年ぶりの再会に、
海は驚きと嬉しさと
恥ずかしい気持ちが一気に込み上げ、
頭の中は大渋滞を起こしていた。
「玲ちゃん、しばらくこっちにいるんだって」
母親が海に話しかけた。
「へぇ~、そうなんだ。何で?」
「仕事の都合でまとまった休みが取れたそうよ」
母親の言葉を聞いた海は、
目の前の玲子を見下ろすと、
「そうなんだ……」
と呟いた。
「うん、二ヶ月程かな……」
「二ヶ月? そんなに長く休みが取れたの?」
「え~と、そう。うちの会社寛大なんだ」
「ふ~ん……」
特に気にすることもなく海は頷いた。
「じゃあ、おばさん、海くん、また」
「玲ちゃんがいると、ご両親も
嬉しいでしょうね。
そして、海も……」
「はぁ~、俺はそんなんじゃないし」
口を尖らせた海を見た玲子が、
「じゃあね、海くん……」
と言うと、玄関のドアを開けお隣の自分の家に
帰って行った。
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