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「久しぶりの三人の再会に乾杯~」
練習後、大学近くの居酒屋でグラスを傾ける
海、大樹そして加奈の三人。
「俺、寮の門限二十二時だから、急がないと」
焦り口調の大樹。
「もう! 大樹は相変わらずだね」
「その点、海は下宿だから門限なしだもんな」
口を尖らす大樹。
「それは、仕方ないだろ。ほら、焼き鳥きたぜ」
なだめるように呟く海。
「わぁ~美味しそう、食おうぜ」
「うん、美味しそうだね」
大樹と加奈が運ばれてきた香ばしく
焼かれた焼き鳥の串を手に取ると
口の中にほうばった。
「旨い~」
「本当、海も食べなよ」
二人の満面の笑顔を嬉しそうに眺める海。
「ん? 海、どうした?」
グラスを片手に大樹が尋ねた。
「いいや……こんな風に楽しく食事が
できるっていいな~って思って」
「は? 何言ってんの?」
「こんな風に……
一目につく場所に来ることないんだろうな」
海がぽつりと呟いた。
「海~、なんか発言が暗いよ~。どうしたの?」
加奈が海の顔を覗き込んだ。
「い、いや、何でもないよ。ほら、食べよう」
海も串を手に取ると、慌てて口にほうばった。
彼の様子を見た大樹と加奈は互いに
顔を見合わせた。
お腹も満腹になってきた頃、大樹が二人に
「なぁ、二人とも将来の夢ってあるの?」
と聞いた。
「夢? なんだよいきなり」
「ほら、俺等まだ一年生だけど、今のうちから
将来のこととか考えてたほうが
いいんじゃないかって思って……」
「私は、CAかな。小さい頃からの夢だもん」
「加奈は、昔から言ってたもんな」
「うん、将来は飛行機に乗って世界中の空を
飛び周りたいんだ。大樹は体育の先生?」
「あたり! 教職の免許取りたいからさ、
でも履修科目がやたら多すぎて、
陸上と両立できるか今から不安だよ……」
「大樹なら大丈夫だよ。粘り強いから……」
加奈が微笑んだ。
「ありがとな加奈。で、海は? あんの?
将来の夢」
「俺? そうだな……
俺は将来、人を守る仕事に就きたい」
「それって警察とかSPとかボディーガードって
こと?」
「今は漠然としてるけどね」
「へぇ……以外だな。海からそんな言葉が
でるなんて」
「まぁ、力業は別として、足速いから
捕まえることには適してるかもな」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、俺等の将来の夢に乾杯しようぜ」
大樹がグラスを手に持つと海と加奈にも
グラスを持つように促した。
「じゃあ、俺等の未来に乾杯~」
カツン、カツン、カツン……。
グラスが擦れる音が賑わう店内の音に加わった。
「やべ~、門限の時間が迫ってる」
慌てる大樹に海も、
「じゃあ、そろそろお開きにするか。
加奈、駅まで送るよ」
と言うと椅子から立ち上がった。
会計を済ませた三人が店から出ると、
「あ~、楽しかった。加奈、ごめんな送って
いけなくて」
両手を合わせ謝る大樹。
「いいよ。海に送ってもらうから。
それより大樹、急がないと……門限」
加奈が呟くと、大樹も、
「ヤバ! じゃあな、加奈。また今度」
と片手をあげると、海の隣に駆け寄り耳元で、
「おい、海。この後、加奈と二人きりは
無しだからな」と囁いた。
大樹の囁き声に、クスッと笑った海は、
「わかってるよ。ほら、さっさと帰れ」
と呟いた。
大樹は駆け出し、少し離れた場所から
二人に大手を振ると一目散に走り去って
行った。
大樹の後ろ姿を見送る海と加奈。
「ね~、今、大樹と何話してたの?」
加奈が海の顔を見ると海は、
「内緒、男同士の約束」と微笑んだ。
「も~、教えてよ」ほっぺたを膨らませる加奈。
「ほら、行くよ」
海と加奈が駅までの道を歩き出した。
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