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夜道を並んで歩く加奈と海。
ん? 海が加奈の顔を見ると、
その視線が海の指に移される。
海の指数本を握りしめた加奈は、
恥ずかしそうに下を向いて立ち止まった。
「加奈? どうした?」
指を握られたまま加奈を覗き込む海。
海に顔を覗き込まれた加奈の頬が
うっすら紅くなるのがわかった。
加奈は顔を上げ海を見上げると
今まで見たこともないような
真剣な眼差しで、
「海、あなたは友情と恋と
どちらをとる?」と呟いた。
「は? 加奈、どうした……の」
突然、海の首に腕を巻き付けた加奈が
彼の胸元に顔を埋めると、
「海、好きな女性(ひと)いる?」
と小声で尋ねた。
「え? いや、その……」返事に困る海。
すると、海の胸元に顔を埋めたままの加奈が、
「私は、海……あなたのことが好き。
ずっと、ずっと前からあなただけを見てきた。
あなたの背中をいつも見続けてきたの」
呟く加奈の言葉にハッとした海。
俺も……加奈と同じ……だ。
ずっと、ずっと玲子さんだけを見てきた。
玲子さん、あなたの背中を追い続けてきた。
彼の胸に込み上げてくる感情。
その場に立ちすくむ海を見上げた加奈は
切なそうな顔で海を見つめると、
彼の唇に自分の唇を重ねた。
えっ? 海の目が大きく見開いた。
海の唇から自分の唇を離した加奈は、
ニコッと微笑むと、
「これで、私と海にも内緒事が出来た。
大樹には内緒。ここでいいよ。
おやすみなさい。またね……」
と言うと駅に向かって走って行った。
「加奈……」
茫然とその場に立つ海。
加奈からの突然の告白とキス、
純粋な親友、大樹の加奈への想い、
色んなことが頭の中で交差する海。
玲子さん……
そして、彼女への『会いたさ』が募ると
切ない夜が暗闇に変わった。
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