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「では改めまして、何かお困り事があるということで宜しかったでしょうか?」
彼はにっこりと笑って椅子に座るように促した。
「失礼、自己紹介がまだでしたね。ここ喫茶Rollinのマスターをしております。皆さんマスターと呼ばれるのでぜひマスターとお呼びください。」
「あっ…はい…えと三好蒼です。それで…」
「困り事でしたね、お話聞かせていただけますか?」
「…父から貰った懐中時計を探しているんです。」
そう言って、僕は褪せた写真を取り出した。
若い頃の父が腰に懐中時計をぶら下げて映っている。
「ここにある懐中時計なんですけど、1ヶ月程前に実家に帰った時に無くしてしまって…」
「そうでしたか。それでご実家の方は…」
「この1ヶ月間何度も通って探したんですけど…見つからなくて…」
「なるほど…ご両親に心当たりを聞いてみたりはしてみられましたか?」
聞けたらここまで懐中時計探しは難航しては居ないだろう。
「父と母は僕が幼い頃に離婚していて…父とは離婚後一度もあっていなくて…母は父の話題を嫌うので…なかなか…」
「そうですか…」
そう言うとマスターは少し考えるように腕を組み、それきり黙ってしまった。
「あの…友人にここなら探し物とか手伝ってくれるらしいって聞いて…その…」
「あぁ、申し訳ございません。説明がまだでしたね。ここ喫茶Rollinは普通の喫茶店ではありますが、それとは別にお客様が困っていることを解決するお手伝いをさせて頂いております。もちろん、三好様のご依頼も受けさせて頂く予定ですよ。」
「ほ、本当ですか……!ありがとうございます…よろしく…おねがいします!」
噂は嘘ではなかったらしい、明日は友人に学食でも奢ってあげようかな、なんて。
ひとまず、依頼として受けて貰えるようで一安心だ。
「では、今週の日曜日、またこちらにいらして貰えますか?そして出来ればご実家の方へも伺わせて頂きたいのですが…」
「…わかりました。母から話が聞けるかはちょっと…分からないんですけど」
「結構ですよ。こちらにおまかせください」
そういったマスターの笑顔はとてもにっこりしていた。
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