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約束の日曜日。僕はまた喫茶Rollinの扉を開いた。
この間とは違い、少しラフな格好をしたマスターが出迎えてくれた。相変わらずのモデル風貌だ。
「お待ちしておりましたよ。では、軽くお話をお聞きしてからご実家の方へ伺わせた頂きたいと思います。よろしいですか?」
「はい…お願いします…」
今度はカウンターではなくテーブル席へと案内された。
「では、お探しの懐中時計について詳しいお話を聞かせてください。」
「はい…この懐中時計は両親が離婚する直前に父から譲り受けたものなんです。」
幼い頃の父の記憶はあまりない。父の仕事は、海外なんかを行ったり来たりして、数ヶ月に1度帰ってきたかと思えば1週間も経たずにまた海外へと飛びかえる。そんな生活をしていたからだ。
ほとんど家にも帰ってこず、さらに少し危険な仕事もしていたと母からは聞いている。学生時代からの付き合いでずっと支え続けてきた母もさすがに愛想をつかしたようだった。
「ちょうど離婚する直前、父が家へ帰ってきた時に貰ったんです。何処へ行くにもこれをつけて行っていたらしいので、僕もお守り代わりに持ち歩いていました。」
「そうでしたか…では失くした時の状況などを詳しく教えて頂けますか?」
「そうですね…無くしたのはだいたい1ヶ月くらい前です。久しぶりに実家に帰省した時。その時にも持って行っていたので、実家で失くしたのは間違いないと思います。」
「なるほど…ご実家に帰る途中やご自宅に戻る最中に失くした、という可能性はありませんか?」
「それはないです。実家に着いた時に、荷物と一緒に自分の部屋の机に確かに置いたので。寝る前にも少し眺めていた記憶があるので実家までは確実に持って行っているんです。」
「そうですか…ではご自宅へ帰る際はどうです?」
「それもないんです。自宅へ帰ろうと思って荷物を整理していた時点で既に懐中時計は失くなってしまっていたので…」
「なるほど…では確実にご実家の方にあるはず、ということになりますね。」
「そうなんです!でも…何度も何度も通って隅々まで探したんですけど見つからなくて…」
「分かりました。お話ありがとうございました。ひとまずご実家の方へ伺わせて頂いても?」
「いいですけど…もうしつこいくらい探しましたよ…?」
「いえ、まだ探す方法はあるはずです。この私が確実に探し当てて魅せましょう!」
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