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マスターと少し話しをしながら僕の自宅までの道のりを歩く。
「三好様は今大学生ですか?」
「そうです。立森国際大学の2年です。」
「立森なんですね。それだとここから少し離れていますか」
「そうですね。なので実家から出て一人暮らしなんです。どうしても国際系の大学に行きたくて。」
「それはまた何か理由がおありで?」
「そう…ですね…朧気な記憶なんですけど、父が家に帰ってくる度、旅の話を聞かせてくれていたんです。とてもハラハラして、ドキドキして…ワクワクして。そんな記憶だけを覚えているせいで、僕も海外へ興味を持っちゃって」
ただ母はあまりいい顔はしなかった。当然だ。あれだけ父に、海外に悩まされた挙句の離婚だったのだから。
「そうでしたか。ではその懐中時計もその時に?」
「えぇ、最後に会った時にも、たしか旅の話をしてくれて。その時に『これを持っていたら、どんなに大変なことがあっても大丈夫だったんだ』ってくれたんです。」
「それでお守り代わりだったんですね。」
「だからなんというか…持ってないと少し落ち着かなくて。もう父とはずっと会ってないですし、小さい頃から肌身離さず持ち歩いてたから。」
この懐中時計を持っていたら、何となく父が見守ってくれているような気がして、何か大変なことがあっても頑張れていたような気がする。
「本当に大事な時計なんですね。気合いが入り直りました!必ず見つけ出しましょう」
「…はい!」
そんなことを話しているうちに目の前に1軒の家が見えてきた。我が家だ。
「こちらが三好様のご実家ですか?」
マスターは少しだけ驚いたような表情をしている。
「そうですけど…何かありましたか?」
「あぁいえ、私もここら辺に住んでいたことがあって、少し懐かしいなと」
そう言いながら少し目を細め、笑みを浮かべているマスターは、さながら雑誌の1ページのようだ。
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