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荻野彪太がHyoに改名していた。
一部の熱狂的なファンでもなければ気づきもしない、新聞の見出しにもニュースにもならなかった瑣末な変化だ。
彪太改めHyoはシンガーソングライターで、高校生の時に発表したデビュー曲がいきなりアニメのオープニングテーマに抜擢され、当時のオリコン週間ランキングのトップ50にランクインした。もっとも、実績らしい実績はそれだけで、それ以降は鳴かず飛ばず。典型的な一発屋だった。
デビュー曲がそこそこ売れたことで天狗になったのか、ライブでのトークは自分の歌唱力や楽器演奏の自慢ばかり。絶望的なトークとパッとしないセカンドシングル曲のダブルパンチで、次第にファンは減っていった。
私は彼との面識は無いが、彼のことは知っている。
私と付き合っていた彼氏が、Hyoと知り合いだったのだ。元彼を通してHyoのことを色々聞いた。Hyoがいなければ、歌手デビューするのは元彼の方だったのだ。
◇ ◇ ◇
数カ月振りに会う友人の早奈美とカラオケに来た。彼女が一曲目を歌っている間に、次の曲を予約する。私の知らないアニメのオープニングを飾った、面識はないけど知っている彼の曲を。
◇ ◇ ◇
元彼とHyoは、同じ音楽アカデミーに通う同期生だった。
数多くのヒット曲が生まれた平成初期に発表した曲がミリオンを記録した歌手が講師を務めるそこで、最も優秀な一名をプロデビューさせることになった。
厳しいレッスンに一人、また一人と脱落していき、最終的に選考に残ったのは元彼と荻野彪太だった。
最終的にプロデビューの切符を掴んだのが、彪太だ。
二人の同期生の暗明が分かれた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
イントロが流れる。
かつて荻野彪太が歌い、元彼が歌えなかったその曲を、私が歌う。
羽ばたいた彪太が地に落ちても、当時の彼氏がただの他人になっても、彼らを通じて知ったその歌のメロディーやメッセージは何も変わらない。
私の知る男たちが誰の記憶から消えても、この歌だけは消させない。
私は歌う。アルバムを捲るように、想いを紡ぐ。
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